アストラウル戦記

 目の前にいた。
 体中の血が逆流するような興奮があった。エウリルが生きてそこにいることが至上の幸福に思えた。そしてその命を自らの手で断つことも。
 ようやく終わると思っていたのに。
 力の抜けたフリレーテを抱えた状態では逃げ切れず、グンナは軍兵にお忍びでダッタンを訪れていたフリレーテの護衛をしていた所、騒ぎに巻き込まれたと説明し、ダッタン市の中心部にある対スーバルンゲリラの駐屯地へ戻っていた。
「なぜ俺を…」
 声が震えて言葉にならず、フリレーテは感情を抑えきれずに大きく呼吸を繰り返した。頭が真っ白だった。ベッドに座り込んで固い枕に身を伏せると、フリレーテは熱っぽいギラギラとした目をグンナへと向けた。
「しかし、あのままでは」
「放っておいてくれた方がよかった! エウリルの息の根を止められないのなら、あのまま死んだ方がずっとマシだったんだ!!」
 振り絞るように叫んだフリレーテは、以前の冷静沈着な姿からは想像もできないほど取り乱していた。
「フリレーテさま!」
 その両腕をつかむと、グンナはフリレーテの体を強く抱きしめた。腕の中でもがいて離せと喚くフリレーテの頭を抱えると、どうしていいか分からずグンナはその体をベッドに押さえ込んだ。フリレーテの顔は涙で濡れて、頬は紅潮していた。暴れるフリレーテの唇を自分の唇で覆い、グンナはのしかかるようにフリレーテを抱きしめた。
 エウリル、消えてしまった。
 久しぶりに見たエウリルは髪が短く、王宮にいた頃よりも力強い目をしていた。今すぐにでもエウリルを探しに行きたかった。逃れようとベッドの上を這い腕を伸ばしたフリレーテの手首をつかむと、グンナは興奮にあてられたようにその首筋を貪った。
 こんな時にも、体は欲望に流される。
 懸命にグンナを押し返そうとするフリレーテにキスすると、グンナは舌を伸ばしてその唇を舐め回した。熱い呼吸を感じて、フリレーテはギュッと眉を潜めた。胸をなで回されて息を乱すと、グンナの重みをその身に感じながらフリレーテはギュッと唇を噛みしめた。

(c)渡辺キリ