その頃、王宮ではアントニアの戴冠式に向けて慌ただしく準備が進んでいた。
王の病状は一向に回復せず、貴族や王族の間ではすでに公然の秘密となっていた。一時期、王宮から出ることを控えていたアントニアも、戴冠式が近づくにつれ次期国王として国内各地のセレモニーに顔を見せるようになっていた。
今日はアントニアは王宮にいず、朝からよく晴れて静かな日だった。極秘に王の病床を見舞った後、自室に戻ってサニーラは美しく飾られた花を見ながら侍従長の報告を受けていた。
「アントニアさまがご招待されたセレモニーは、昼頃までのご予定でございます。輿に乗ってルイゼン=ド=ハイヴェルさま率いる近衛小隊と共にパレードされ、その後、市長と会食されるご予定です」
「そう。ルイゼンが一緒ならさぞかし派手やかなパレードとなることでしょう」
「そうでございますね、王妃さま」
穏やかな笑みを浮かべて侍従長が答えると、王妃は重いドレスを揺らしながら小さなテーブルについて侍女に紅茶を頼んだ。
「では、さっきの報告の通り、アントニアはセシルを連れていかなかったのね」
「はい。彼はアントニアさまに命じられ、伴の者を数人連れてプティ市へ向かっている所です」
「追いつけるかしら」
「もちろんでございます。途中で足留めすることができれば、すぐに連絡が入る手筈となっております」
「そう」
一通りの報告が済むと、侍従長は下がっていった。ずっと気に病んでいたことが、ようやく全て片づくのね。後はローレンさえ戻ってくれれば、心配事は全てなくなるのに。
「王妃さま、紅茶が入りました」
赤い実の砂糖漬けをあしらったクッキーと共に、湯気の立つ紅茶を出して侍女はまた部屋の隅に控えた。優雅にカップを取り上げて口をつけると、サニーラは一人黙り込んだまま思考の海に沈んだ。
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