今度はアントニアの書斎とは違う一室が与えられ、見覚えのある調度品にフリレーテが黙り込んでいると、床に膝をついてフリレーテの服を着替えさせていたセシルが、フリレーテの腰の巻きベルトを結んでから立ち上がった。
「今後はこちらの部屋を自由に使うようにとの、アントニアさまからのご指示でございます」
「サニーラ王妃が許すまい。私がこの部屋を使うことは」
フリレーテがチラリとセシルへ視線を向けると、セシルは王太子さまのご指示でございますと繰り返し、部屋を辞していった。悪趣味だな。破壊的だ。窓際に置かれたゴブラン織りのクッションのついた椅子に腰掛けると、フリレーテはテーブルに肘をついて口元を覆った。
ここは、フィルベントの部屋。
フィルベント、お前は俺を恨んでいるか。
ぼんやりと見える影に視線をやると、フリレーテはため息をついて立ち上がった。いや、恨みや憎しみは感じない。フィルベントの気配の残滓だ。
あの王太子、嫌がらせだけは天才的だな。
俺とサニーラの両方にダメージを与えるとは。波風を立てて遊んでいるとしか思えない。不機嫌な表情のフリレーテを部屋の隅から伺う侍女たちを見ると、フリレーテはベッドに座って口を開いた。
「誰か王太子の所へ行って、本当にこの部屋を好きに使っても後悔しないか聞いてこい。それから、少し考え事をしたいから他の者は出ていってくれ」
「仰せのままに」
あれ? 命じたフリレーテの方が唖然とするほど、侍女たちは呆気なく部屋から出ていった。また俺を閉じ込めるつもりかと思っていたのに、何を考えてるんだ、あの王太子は。美しい顔に似合わないほど顔をしかめ、ため息をついてフリレーテはベッドに寝転んだ。
少し疲れた。
大きな欠伸を一つすると、フリレーテは目を細めてベッドの天蓋部分を見上げた。プティ市のアリアドネラ邸を出る前から、ほとんど眠っていなかった。少しだけ眠ったら、一つずつ厄介ごとを片づけよう。よく回らない頭で考えながら、フリレーテは睡魔に誘われるようにゆっくりと目を閉じた。
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