このまま、地下まで行くのか。
二人について階段を下りると、最近、兵士が出入りしているせいか、階段の石壁の蝋燭台に半分ほど溶けた蝋燭が立てられ、そこに火が灯っていた。王妃さま、お気をつけ下さいませ。長い階段を下りながら侍女が燭台で足下を照らすと、サニーラは大丈夫よと答えた。
石段は最下層まで、螺旋を描いて続いていた。
こんな所が王宮にあったのか。いざという時の非常口も兼ねているようだな。まるで迷路だ。考えながら分かれ道を見て、フリレーテはサニーラたちについて右へ曲がった。ふいに向こうから王立軍兵が歩いてくるのが見えて、フリレーテが壁へ身を寄せると、兵士はサニーラに気づいて慌てて敬礼をしてから道を塞いだ。
「恐れながら王妃さま、ハイヴェル卿の命により、どなたもこの先においでいただく訳には参りません!」
兵士の声は石壁に響いた。いいから、あなたは下がりなさい。そう言って侍女をどかせると、サニーラは兵士を見上げて言った。
「ハイヴェル卿の命ですって? 私を誰だと思っているの。エンナ王妃亡き後、王の第四王子であるエウリルは私の息子のようなもの。裁判にかけられ反逆罪で死ぬ前に、一言言葉を交わしたいだけ」
ゆっくりと低い声でサニーラが言うと、兵士は苦しげな表情で、私の一存では決めかねますと答えた。敬礼したままの兵士を黙ってジッと見つめると、サニーラは高慢そうな目で静かに言葉を続けた。
「まだ分からぬか。一介の兵士が王妃には逆らえぬと報告すればよかろう」
サニーラの声は迫力を持って力強く響いた。兵士が眉をギュッと潜めて敬礼したまま道を開けると、サニーラは侍女を連れて先へ進んだ。
呆れたな。可哀想に。
この男は降格だ。ハイヴェルが許しても王妃が許すまい。運の悪い男だな。まだ硬直したように壁際で敬礼をしている男を見ると、フリレーテは先に見える燭台の火を追いかけた。しばらく歩くと狭い曲り角があって、フリレーテがそこから向こうを覗くと、三段ほどの石段の向こうにいくつか牢獄が並んでいるのが見えた。
あれが…。
思ったよりも牢獄は広く、フリレーテがそっと石段を降りると王妃はその場にいた兵士二人と何か話していた。牢獄の入り口で番をしていた兵士たちは王妃と話した後、すぐにそこを退いてサニーラをその場で見張るように直立した。侍女にもその場に残るよう告げると、サニーラは燭台を持ってゆっくりと奥の牢獄に近づいた。
フリレーテが後を追うと、サニーラは一番奥の牢獄の前で立ち止まった。
エウリル…本当に。
フリレーテが顔を覗かせると、サニーラの肩ごしにナヴィが見えた。鉄格子の中でベッドに座っていたナヴィが、サニーラに気づいて立ち上がった。サニーラさま。そう呟いたナヴィの声は掠れていた。乾燥した牢獄の空気に気づいてフリレーテが周りを見回すと、サニーラは燭台を手に持ったままジッとナヴィの顔立ちを眺めた。
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