馬を休ませるためと、ガスクの救出作戦を予定外に取り止めたために、アサガたちはそこから川岸まで馬を引いて休憩を取った。
「アサガ、本当にすまない」
河原に円を描くように座っていた仲間たちを見回した後、アサガを見てガスクが呟いた。これまでの状況を一通り説明して、カロクン川を西へ遡っていった軍船を追ってきたことを付け加えると、ガスクはアサガに深く頭を下げた。
アストラウル人のアサガに謝るガスクの姿を見て、周りにいたスーバルン人たちは驚いたようにどよめいた。その様子を黙ったまま眺めると、それからグウィナンは大きな石に腰掛けたままガスクを見下ろして口を開いた。
「ナヴィはやっぱり王宮へ連れてかれたってことになるか。お前の姿が見えた時、一瞬、ナヴィも一緒かと期待しちまったが…」
「お前の見立てはどうなんだ。兵士たちはどこへ行くとか言ってなかったのか?」
ナッツ=マーラが河原で膝を抱えて座ったまま尋ねると、アサガがガスクを見つめた。どこへ行くとは言ってなかったが。そう呟いて、それからガスクは答えた。
「どちらにせよ、ナヴィがエウリル王子である以上、やはり一番に連れていかれるのは王宮だろう。ローレンの居場所を知っている可能性が高いと見られて、王宮で尋問されるはずだし、兵士たちだって、王子を自分たちの影響下から早く上へ引き渡したいと思うに違いない。あいつらは衛兵軍とも違ったから、ハイヴェル卿から指示を仰げるアストリィへ向かったんじゃないか」
「お前もそう思うか…」
胸の前で両腕を組んでグウィナンが呟くと、目を伏せて眉を潜めていたアサガが顔を上げてガスクを見た。
「兵を二手に分けます。僕はナッツ=マーラと一緒に、作戦通り王宮を目指します」
「今回の作戦は、アサガが大将なんだぜ」
からかうようにナッツ=マーラが言うと、赤くなったアサガがナッツ=マーラを軽くニラんでまた口を開いた。
「ガスクを救助するはずだったグウィナン隊は、ガスクを加えた後の作戦をここから実行。伝令はプティに引き返してローレンさまに現状報告、そして、ガスクたちはサムゲナンの暴動を食い止めて下さい」
「暴動?」
驚いてガスクが尋ね返すと、グウィナンが頷いてガスクを見た。
「お前が行方不明になった後、サムゲナンで暴動が起きたんだ。その後、鎮圧されたという知らせは入ってこなかった。今は、イルオマとユリアネとかいうオルスナの女が様子を見に、サムゲナンに先行しているだけで、俺たちはダッタンでお前を回収し、そのままサムゲナンに向かって兵士たちとやり合う予定だったんだ」
「あくまで暴動鎮圧が目的だぜ。でも、兵士に鎮圧されるのと俺たちが食い止めるのでは、意味が違うからな」
鋭い目でナッツ=マーラがグウィナンの言葉に続けて言うと、ガスクは暗い表情で視線を河原の石に落とした。
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