夜が明けると、サムゲナンの町が見えた。
山の中腹からその様子を眺めると、ガスクは息を飲んで手綱を握る手に力を込めた。サムゲナンの町では所々で煙が上がり、どこか町全体がくすんでいるようにも見えた。ガスク、落ち着け。隣で囁いたグウィナンを見ると、ガスクはグッと歯を食いしばってから振り向いて仲間たちに視線を向けた。
「これからサムゲナンに入り、暴動を食い止める。民間人には絶対に手を出すな。サムゲナンにいる王立軍を撤退させることが第一の目的だ」
「ガスク、先に俺たちの仲間が町に入ってるはずなんだ」
ヤソン率いるプティ市警団のメンバーが言うと、ガスクは頷いて答えた。
「今はあいつらがどういう状況にいるか分からない。町で情報収集しながら、合流を目指そう。それまでは俺の指示に従ってもらう」
「分かった」
「何か緊張してきたな」
海賊を相手にしたことはあっても王立軍と戦うのは初めてなのか、ガスクの隣にいた市警団の一人が強張った表情で笑みを見せた。その顔を見てニッと笑みを返すと、ガスクは仲間たちを見回して口を開いた。
「お前たち、絶対に、死ぬんじゃねえぞ。死ぬぐらいなら一目散に逃げろ」
「そう言って、いつも殿を守ってくれんだからよ」
苦笑いしてスーバルンの男が言うと、ガスクはニヤリと笑ってからもう一度サムゲナンの町並みを眺めた。これがあの、美しかった町か。子供の頃に遊んだ記憶のある家々は、すでに見る影もなく焼かれていた。残っているのは石造りの家や寺院ばかりで、ガスクは一瞬黙り込み、それから腹に力を込めた。
「行くぞ!」
おお!と仲間たちが腹の底から声を響かせた。険しい山道を馬で駆け降りると、あっという間に町が近づいてきた。無理するな! まずはヤソンを探すんだ! ガスクが怒鳴ると、手綱を握りしめて懸命についてきた仲間たちが同時に頷いた。
山を馬で駆け降りてサムゲナンの町へ入ると、ガスクは腰にさした剣を抜いて振り上げた。それを合図に仲間たちが一斉に剣を抜いて、サムゲナンで見張りをしていた数人の兵士たちが馬の足音に気づいて驚いたように声を上げた。
「てっ、敵襲! 奇襲だ! スーバルンゲリラ…」
ガキンと大きな音が鳴って、馬で走ってきた勢いのままのガスクに切られた兵士が跳ね飛ばされた。それまで司令官がいないのをいいことに、民家に入って略奪行為をしていた下っ端の兵士たちが振り向くと、ガスクは手綱を引いて肩で息をしながら怒鳴った。
「王立軍! 投降しなければ命の保証はない! ここはスーバルンの聖地、サムゲナンだ! これ以上の略奪はラバスの神が許さんぞ!」
ジンカ。見ているか。
剣を天に向け、よく通る声を張り上げたガスクを見て、グウィナンが心の内で呟いた。ゲリラは少数だ! 恐れるな! 慌てたように兵士の一人が言って、腰にさした剣を抜いた。
「そう簡単に引いてくれるわきゃねえか」
ボソリと呟いたガスクに、そんな訳ねえだろと言ってグウィナンが剣を抜いた。ガスクがリーダーだと気づいた兵士たちが、一斉にガスクに向かってきた。サムゲナンを守れ! 市警団の一人が声を上げると、ガスクたちは馬に乗ったまま兵士に向かって剣を振り下ろした。
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