サムゲナンの大寺院に集まってこれからのことを話した後、それぞれの武装集団のリーダーを残してメンバーたちはサムゲナンの周囲に建てた小屋に戻っていった。グステやプティへ逃げていた避難民も少しずつ戻ってきていて、サムゲナンの焼け跡にはいくつもバラックが建てられていた。
「ガスクいる?」
食事を持ってガスクのいるスーバルンゲリラの部屋を訪れると、ナヴィはそこにいたゲリラの一人に尋ねた。ガスクなら、鐘撞堂だと思うぜ。男が答えると、ナヴィは礼を言って、すれ違うラバスの僧侶に道を聞きながら鐘撞堂に向かった。
大寺院の最上階まで来ると、鐘撞堂に上がる梯子が見えた。ガスク。声をかけても降りてくる気配はなく、仕方なくナヴィは食事のトレイを片手に持って、おそるおそる梯子を上った。
「ガスク?」
高い塔の天辺には大きな鐘がつり下がっていた。
鐘撞堂は狭く、二人も入れば一杯になってしまいそうなほどだった。鐘がよく響くよう、屋根がつけられているだけで大きな窓にはガラスがはめ込まれていなかった。風が強く、ナヴィがよろめいてガスクを見ると、ガスクは地面に座り込んで壁にもたれたまま眠っていた。
「こんな所で、よく眠れるな」
呆れたように言って、ナヴィは食事のトレイを置いてガスクに近づいた。ジッとガスクの寝顔を見つめると、何だか胸が締めつけられて、耳までカアッと熱くなってナヴィはそろそろとガスクから離れようとした。
「!」
その途端、腕をつかまれる。
「起きてたんだ」
ナヴィが言うと、ガスクは目を開いてナヴィの腕を引き寄せた。
「今、目が覚めたんだ。下だと人が多くて、熟睡できないから」
そう言って食べ物の匂いに気づくと、ガスクは持ってきてくれたのかと尋ねた。一緒に食べようと思って。ナヴィが答えると、ガスクはナヴィの体を左腕で抱いて、右手で食事のトレイを取り上げた。
「赤ちゃんじゃないんだから、離してよ」
しっかり抱きかかえられてナヴィが言うと、ガスクは笑った。赤ん坊だなんて思ってねえよ。そう言ってゾクリとするような色っぽい目で見ると、ガスクはナヴィの頬に軽くキスをした。
「腹減った」
ナヴィが真っ赤になった途端、情けない声でガスクが呟く。
「食事はラバス教寺院への寄付から分けていただいたんだよ」
「食えるだけ、感謝しなきゃな」
「今夜はグステや西の町からもラバス教の人たちから小麦が持ち寄られて、寺院の前で配給してるって。ナッツ=マーラが手伝ってる」
「さっき聞いた。俺も行こうかと言ったら、お前は零すから駄目だと言われた」
ガスクが真顔で言うと、ナヴィはガスクの腕の中で笑った。その声は明るくて、ガスクは笑みを浮かべてナヴィの体をギュッと抱きしめた。
「わ! 何?」
「黙ってろ」
目の前で囁いて、ガスクは驚くナヴィの唇にちゅっと音を立ててキスした。鼻先に、頬に、額にキスしてガスクはナヴィの頭を抱きしめた。互いの息づかいが感じられて、体の芯が疼いた。ガスク。腕を伸ばしてその首筋に抱きつくと、ナヴィは自分からガスクに口づけてうっとりとガスクを見つめた。
「二度と会えないと思った」
ナヴィを抱きとめて、ガスクが低い声で囁いた。
「僕も」
「お前、人が縛られてるっていうのに川に突き落とすから。もう終わったと思ったぜ」
ニヤリと笑ってガスクが言うと、ナヴィはバツが悪そうにゴメンと答えた。冗談だよ。ナヴィの両頬をぷにっとつまむと、ガスクは食事のトレイを取ってナヴィの膝の上に乗せた。
「メシ食おう。腹減ってヤベえ」
「僕もお腹空いたよ。ロクに食べてるヒマなかったもん」
トレイの上のパンを、ナヴィは三分の一だけ取って残りをガスクに渡した。何で半分じゃないんだよ。ガスクが尋ねると、ナヴィはガスクを見上げた。
「だって、ガスクの方が大きいから」
「バカ。遠慮すんな」
そう言ってパンを分け直すと、ガスクはそれをかじってトレイの上に乗っていた椀を取り上げ、直接口をつけてスープを飲んだ。ほら。それをナヴィに差し出すと、ナヴィはガスクの手の上から椀をつかんで器に口をつけた。
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