The National Front Disco  ザ・ナショナル・フロント・ディスコ
デヴィッド、風が吹くぞ
その風が……
お前の人生を粉々に吹き飛ばす
お前の友達はみんな言っているぞ
「僕らの仲間だったあいつは何処へ? 僕らはあいつを見失ってしまった」
けれど 彼らは知っていなくては
お前が何処へ行ってしまったのか
何故なら、お前は繰り返し 繰り返し説明していたのだから
自分が何処へ行こうとしているのかを……

お前が目指すところ……
Yeah, yeah, yeah, yeah
「イギリス人のためのイングランド!」
「イギリス人のためのイングランド!」

デヴィッド、風が吹くぞ
その風が……
僕の夢をみんな吹き飛ばす
そして僕は未だに言う
「僕らのあの子はどこに? ああ、僕らはあの子を見失ってしまった」
けれど僕は知っていなくては
どうしてお前が行ってしまったのかを
何故なら、お前は繰り返し 繰り返し説明していたのだから
自分が何処へ行こうとしているのかを……
国家……
国家へと行ったのさ……
ある一つの国さ 今、お前が暮らしている国でなく
いつかはそうしたいと思う国へと
そして、お前を形作っているものを見せつけてやるのさ
ああ、もう見せてやったのかもな……

けれどデヴィッド、僕らは不思議に思うんだ
もし本当に雷が鳴り始めたら
始めたら、始めたら……
お前のママは言っているぞ
「私は大切なあの子を見失ってしまった」
けれど彼女は知っていなくては
どうしてお前がいなくなったのかを 何故なら、お前は繰り返し 繰り返し説明していたのだから
自分が何処へ行こうとしているのかを……

国家
国家主義へと
ナショナルフロントの狂騒へと
何故なら、今すぐその日が来るよう待ちわびているから
今すぐその日が来るよう待ちわびているから
今すぐその日が来るよう待ちわびているから
待ちわびながら、お前は仕返しをしていたんだ

Oh, the National
Oh, the National
Oh, the National
Oh, the National
Oh, the National


・National Front
British National Front(NF) 英国国民戦線
http://www.natfront.com/
 英国の社会混乱の要因を移民の増加に求め、解決策として全移民の故国への強制送還をポリシーに掲げる政治団体。
上記公式サイトより彼らのポリシーを要約すると、
『AIDSを持ち込むアジア、アフリカからの移民は公共医療費の支出を増やし、黒人の組織的銃犯罪の増加、かつて白人労働者階級が住民の多くを占めていた町が多国籍化した結果の治安の悪化―等々により自治体の財政が圧迫され、本来英国人が受けるべき公共サービスが疎かになり、政治的にも混乱をきたす原因となっている』といった具合である。他、基本路線として、反帝国主義(移民は過去の帝国主義の産物である)、反ナチズム、英国の海外派兵反対(他国の戦争に首を突っ込むよりも内政問題に集中すべきである)、反同性愛。
 この団体は、主に70年代、80年代の不況下に、低賃金で働く移民に仕事の場を奪われたと感じる白人労働者階級や失業者、低所得者の間で支持を伸ばし、特に過激な支持者はしばしば暴力を持って移民や非白人種の排斥運動を行った。また、そういった支持者に10代の若年層が多く含まれていたことも特徴的である。

 英国においても、大多数の良識ある市民はナショナルフロントのポリシーや、支持者による暴力的な活動に嫌悪を感じていることだろう。しかし、そこであえてモリシーは指摘するのだ。こういった暴力は「どこかの自分とは関係のない人々による悪事」ではなく、「親しくしていた友人や、よく見知っていた筈の知合いや、愛する我が子が身を投じることも有り得る」のだと。それも、突然に狂ってしまうのではなく、本人が常に示していたサインを我々が見過ごしていたのだと。見過ごしている内に、いつの間にか取り返しのつかない状態にまでなってしまうのだと―。この歌が、聴く人の心にとりわけ不穏な気持ちを残すのは、この指摘ゆえかもしれない。

 人は自分自身が幸福で満ち足りている時には、他人を殴ったり追い出そうなどとは考えないものだ。逆に不幸である時には、その原因を他者に求めてしまう。ナショナルフロントのような団体は、こういった人々の寄る辺のない心情に付込み扇動する。モリシーが「National Front Disco」を歌った時代、やはり多くの若者達が不満の捌け口を「海を渡ってやって来た他者」である移民に向けていた。

 「National Front Disco」のライブ演奏では、バンドが激しいアウトブレイクを演じる。ギターが悲鳴のような音を響かせ、ドラムが滅茶苦茶に乱打され、そして全ての音が崩れる落ちるかのように収束する――。これには、ナショナルフロントの活動にのめりこむような若者達の暗い熱情と失意の心象が、そのまま表現されているように思える。

 尚、モリシーには、他にも追い立てられる側の視点で書かれた「This Is Not Your Country」という歌がある。更に「Irish Blood, English Heart」「Ganglord」といった幾つかの作品でも、視点を変えながら同様のテーマに挑んでいる。

収録アルバム
基本的にオリジナル・アルバムのみの記載です。
アルバム未収録曲に限りベスト盤等を記載します。

・Your Arsenal