<或る触手の一人言>


漏れがこの星に落とされて10日。
最初の夜、地球人のごみ捨て場で交戦した戦士は、あれから見ていない。


漏れが知っている自分の役割は、戦士を葬る使命を帯びていることだけ。
戦士の目印は、頭に銀色に輝くカチューシャ。

漏れを殺そうと刃向かってきた戦士は今まで何人も葬ってきた。引退間際の壮年もいれば、 中には年端のいかない少女もいた。

殺した戦士はみんな食った。
が、美味いのは子供だ。
そう、先日取り逃がした坊やのような。


体温の高い子供を生きたまま食う。
意識のあるうちに手足をもいで、アドレナリンのたっぷり出たころが最も食い頃だ。

ほかにも腹が減ったら、何でも食っていいことになってる。
人でも猫でも、生き物すべて。

そして漏れは卵を生む。この星に棲みつく子孫を残すために。


けど漏れは、戦士以外の人間の子供は食わないことにしている。
征服したあかつきに、奴隷として使うための労働力は一人でも多いほうが良い。



ちかごろの戦士はアスト星人がずいぶんと多くなった。

アスト星。
資源が枯渇し、工業力も三流で・・・それでも地球に比べれば遥かに進んでいるのだが・・・、
食糧自給率も低いため、傭兵業でもやって生きていくしかない。

資源と工業製品と、パンの代償に命を払うのだ。
漏れらがいる限り需要が尽きることはないのだから。

傭兵稼業には、他の種族より頑丈で、回復の早い肉体を持っていることが特に都合が良い。
その戦士に年々子供の率が高くなっているのは、「工場」での「製造」が軌道に乗り始めたからだろう。
いや、需要の高まりで、若くても「出荷」しなければ追いつかなくなったというべきか。
試験管から産まれる彼らは遺伝子操作を受け、身体能力や知能の高さはもちろん、美形が多い。
中でも選りすぐりの子供だけが教育され、宇宙連邦政府の名の下に、全宇宙の派遣先に送り出される。
その大半は生きてアスト星に戻ることはない。

たくましく生き残った強い男女だけが、アスト星に戻ることを許される。
余生は、より強い戦士を生産するための「種」になるのだ。



戦士に選ばれる子供は名誉あるエリートであると同時に、一種の生贄だな。
漏れらに差し出される生贄という奇妙な共生の構図。
漏れらがいなくなったら傭兵の存在意義もなくなるから、アスト星は食っていけなくなるということでもあるのだ。

なに、こんなことは珍しいことじゃない。
たとえば地球でだって、貧困国の子供たちの犠牲の上で成り立っている豊かさも存在するではないか?



・・・なに?アスト星人の子供に見えるのは、実は成人だって?

味は地球人の子供と変わらんと聞くよ?

#筆者は人間やぬこを食ったことありませんからね!ヽ(`Д´)ノ




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