刃を怪物の本体に突き刺すと、緑色の血しぶきが白いレオタードを汚した。
金斬り声を上げながらのたうちまわる触手の化け物。
ブラッド・オクトパスは梶川なつきの頭にカチューシャがないのを確認すると、ターゲットをハルに絞った。
何十本もの触手の先端の爪がハルを襲い、レオタードや素肌を引き裂くたびに、傷口からぱっと花吹雪のように血が舞い散る。

「うっ・・・んっ・・・ううっ!」

ツーッとナイフがバターを切るかのように、鋭利な爪が、筋肉のつきはじめたハルの透き通る胸肌に、
鮮やかに傷を入れていく。そのたびに漏れる変声前の高い呻き。

けれど、ハルも負けてばかりではなかった。

「でやあ〜〜〜!」

ナイフで触手を斬っていくが、何本かは直径が太く、切り落とすには至らなかった。

(思ったより強い。暑さで弱っていると思ってたんだけど・・・? )

触手は衰えることなくハルのすらっと長い足に巻きつき、這い上がってこようと吸い付くように絡みつく。

(気持ち悪っ)

何度味わっても背筋のゾクッとするような嫌悪感に、思わずナイフで触手を突き刺す。

ザシュッ!

「あ痛っ!」

触手を貫通した刃先が自分の腿肉まで突いてしまった。力加減を間違えた!
自分の足のところで激しくのたうつ触手の先端からさらに細い触手が何本も出て、
まるで股間の香りを探るかのごとく、白いハイレグの膨らみを探っている。

「やっ・・・」

テントの張りかかった隙間をうかがう触手に気を取られていたその時、
とびっきり太い触手が、ハルの腹を薙ぎ払うように放たれた。
続いてハルを仰向けに地面に叩き落とし、突くように力一杯腹に打ちつけた。
さっきファンの男性を飛ばしたのと同じか、それ以上の強度があるはずだ。

太い触手の先端がハルの腹にめり込み、先端の爪がハルの体内奥深くまで刺し込まれている。

ぱきぱきっ・・・
ぐちゅっ・・・・

肋骨が折れ、内臓が破裂しているに違いない。
普通の子供なら・・・いや、ハルだって、ダメージコントロール機構のあるバトルスーツを着用していなかったら即死だろう。

「うあぁぁああああぁぁぁぁああぁあ・・・!!」

身動きの取れないハルのレオタードの内側に、触手が絡みつく。
触手の太さを収納したため、もともとぴちぴちだったレオタードはさらに張り、
美少年の肉体の凹凸がくっきりと浮かび上がった。
そして・・・スーツの「機能」により、痛めつけられるほどに性器が勃起してしまうのだ。

ステージ天井の、点灯したままの真っ白な照明は純白のテントを映えさせ、
その大地から伸びる二本のスレンダーなフトモモに生える産毛までくっきりと輝かす。
だが、そのテントにも腹部からじわじわと生温かい血が染み込んできて、飽和した布の先端からフトモモの上を垂れ流れた。

俺は肉雪崩で身動きが取れないままに、ただステージの上だけは凝視していた。
床に真紅の池が広がっていくのを、ただ見守るしかなかった。

「ハルーーーーーー!!!」

何度も触手に打ちつけられる音がここまで聞こえ、だんだん動かなくなっていくハルが遠くに見えた。
手元には、くしゃくしゃになったシャツとハーフパンツ。
汗をたっぷり吸い込んだそれは少年の爽やかな体臭を貯え、まだ生温かかった。
肉の洪水は出口に向かってゆっくりゆっくりと押し流れ、ハルの姿もだんだん遠のいていく。

視線の先に、ハルの姿が完全に見えなくなったその時。


どったーーーーん!!!


肉の洪水が出口の外に達し、その弾みで将棋倒しになる観客たち。
俺も肉雪崩に巻き込まれ、倒れ込んできた他の客の靴が俺の頭を直撃した。
目の前が真っ赤になった。
薄れゆく意識の中で、なおも足掻き続けた。

おにいちゃん、こっち、こっち〜!

無邪気に俺の腕を引っ張るハルの顔が浮かんだ。

俺は・・・・ハルの兄貴なんだ!
なのに・・・守ってやることができなかった・・・!


ハルと出会ってから今までの日々が、頭の中を夢のように駆け巡っていた。




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