ハルが俺のアパートに戻って三日ほど経った午後。
夏風邪の熱も下がり、元気になったハルはいつもになく上機嫌だ。

「これでエミリアに地球のお土産を買ってあげられる」

遊園地の戦闘で蛸を一体倒した実績と、怪我を負った見舞金という名目で、
多くはない金額ながら臨時ボーナスが支給されたのだ。

「看病でお世話になったことだし、広瀬さんが食べたいものがあったら買ってきていいよ」

とのお言葉とともに新渡部稲造の旧札を一枚渡され、駅前の商店街に夕食の買い物にやってきた。

惣菜屋に並ぶ蛸足の唐揚げを見て、思わず「うえっ」と口を押さえる。
あれ以来、あまり軟体生物の類を食べたいと思わなくなってしまったからだ。
結局イカとタコを抜いて握ってもらった寿司を二人前買って、帰路についた。


地球に落下した怪物「ブラッド・オクトパスG-U型」が一匹ではなかったらしいとの情報を受け、
捜査および退治のために引き続き俺のアパートに居着くことになったハル。
命がけで任務に当たるハルのことを思えば、今の生活に充実感を抱いていると言えば怒られそうだが、
刺激的な毎日であることは否めない。
いつかハルが地球上全ての怪物を倒して、無事アスト星に帰る日まで、微力ながらサポートできたらいいなと思っている。

いろんな思いに耽りながら歩いていたら、背後に自動車の気配を感じるのが遅れた。
クラクションを鳴らされ、とっさに壁際に寄る。
この狭い路地に、旧型の真っ黒なフォード「リンカーン・タウンカー」が入り込んできていたのだ。
窓ガラスには黒いスモーク・フィルムが張られ、中の様子を見ることは出来ない。

(うわっ、原油高のご時勢、燃費悪そう・・・)

タウンカーはゆっくり俺を追い越して、十メートルほど先で停車した。
後席のドアが開き、降りてきたのはサングラスに長袖の紺のセーラー服、紺の半ズボンを履いた女の子だった。11歳ぐらいかな?
背中まである長い金髪には子供サイズの水兵帽をかぶっていて、細い腰から生えたむちっと細長い、
白いフトモモの膝下は白い靴下に覆われ、ぴかぴかの真新しい茶色い革靴を履いている。
女の子は俺の前まで歩いて来てサングラスを取った。
ヨーロッパ系の上品で清楚な顔が現れ、グァムの海のように真っ青な、澄んだ大きな瞳が俺を見つめる。
そして異国のお嬢さん的な風貌からは想像できないくらいに流暢な日本語で俺に訊ねた。

「こんにちわ。ヒロセさんっていう方のアパートはどちらかしら?」

えーっとこの顔、どこかで見たことがあるような・・・気がするのだが思い出せない。

「僕が広瀬健哉だけど?」

「あら、あなたが。はじめまして。ウチ、フリードっていうの」

「君、外人さん?」

「アメリカから来たの」

小さな手を差し出して、握手する。体格はハルよりやや小柄で、さらに華奢な感じがする。

「何か用?」

訊ねると、小さな美少女はいきなり俺に抱きついてきた。


「パンパカパーン!!☆おめでとうございまーす、広瀬さん☆ あなたは合格しました!
 三日間、ウチと生活する権利が与えられたので〜す!」


俺の腕に胸を押し当てるようにきゅっと掴み、いたずらっぽく微笑む小悪魔。

ぺったんこの胸。うわっ・・・子供なのに大胆。
ギャルゲー原作のアニメDVDやゲーム雑誌のアンケートは何枚か送ってるが、こんな特典あったっけな??

「きゃ〜〜!はっじめましてぇ広瀬さん〜〜〜!」

高い声でキャアキャアはしゃぐ絶世の美少女。願わくばもうあと2〜3歳年が上で、膨らみかけだったなら言う事ないんだけど。
相手がお子様と分かっているのに胸がドキドキする。俺ってロリコンだったのかな??

「さあ広瀬さん、あなたのお部屋へ連れてって。こんなところにずっといたらお肌に悪いわ」

よく見ると、少女の長袖のセーラー服の中はかなり汗ばんでいるようだ。熱中症にでもなったら大変だ。
けれどたしか部屋にはハルがいるはずだ。ハルはなんて言うだろう?
変に脚色されて、鈴村先生にチクられないだろうな? これは用心したほうがいい。

「だめだよ。今・・・そうそう、シロアリ駆除の業者が来てて入れないんだ」

「じゃ、業者さんが帰るまでお茶しましょうか」

しかし白人のお嬢さんと二人っきりというのも、ビジュアル的にまずい気がする。

「いや、やっぱり日を改めて・・・今日のところは遠慮してくれないかな」

言った途端に少女の顔がゆがんだ。

「ええ〜?そんな・・・せっかくはるばるとアメリカから来たのに・・・」

ツツーッと涙が流れた。

「ひどいわ!ウチ、広瀬さんに英会話のレッスンするのを楽しみにしてきたのに!もう帰れって言うわけぇ??」

「そんな、別に帰国しろとは・・・こっちにも都合が・・・」


いきなり幸せがやってきても、扱いに困ってしまう。

・・・て、英会話のレッスン???





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