しばらくして、少年は少しマニキュアのついた引き締まった尻をふりふりと揺らしながら、大きなボトルを抱えてきた。

「ドンペリね」

コクッと肯く天使の顔。

「めっ。未成年がお酒飲んじゃいけませんよ」

母親の口調で叱る優子。

「僕は飲まないよ」

「じゃあせめて、レックスの綺麗なカラダを堪能しながら、ゆっくり飲ませて」

フリードは仰向けに、ベッドに横たわった。
優子はコルクを開けると、横になったフリードのお腹の上にシャンパンを垂らし始めた。

「カラダに飲ませてあげる」

ひんやりするシャンパンが腹の上を伝っていくたびに、少年の高い体温により炭酸がシュワシュワと揮発し、筋肉がピクピクと痙攣する。

「ひゃっ、冷たいよ」

股を閉じて作った三角形に酒が流れ込んで池を作り、水面からペニスの先が離島のように顔を出していた。

「こうやって、おち○ちんを洗わないとね」

池の中で、剣の先を剥く小さな手。

「まあ。レックスたら・・・」

「さあママ、飲んで。僕の蜜割り」

シャンパンにフリードの汗も恥ずかしい液も全て溶け込んだ、濃縮された泉が目の前に現れた。
まるで魔法にかかったように、口で直接、デルタ型の池の水をピチャピチャ啜る優子はもう、ただのメス犬だった。
ズズーッと全部飲み干し、なおも白い腿や陰嚢に残った酒を舐め取っていく。


「レックス、もう一杯、いただけないかしら・・・」


だがその直後、ガクッと腰を落とす優子。

「へっ・・・やだあたし、なんだか眠く・・・」



「悪いね、小圷さん」





「えっ・・・? レックス、何したの!?」

若すぎる紳士は優子の口を塞ぎ、舌の絡まる、とろけるようなキスをした後、一枚のポラロイド写真を見せた。

「撮らせてもらったからね」

それは優子が口の端から白い蜜を垂らしながら、フリードの性器を咥えている写真だった。
ここにきてようやく、自分のしでかした罪に気づく優子。児童買春。児童ポルノ禁止法違反。

「あっ・・・あなた、一服盛ったのね!?」

「殺しはしない。少し眠ってもらうだけさ」

「あたし・・・まだ・・・インタビュウがあ・・・」

「これ以上、僕のことを詮索しないで。さもないとあなた、二度とテレビに出られなくなるよ」


「レックス・・・・あなたは一体・・・」


うつろになる意識の中で、裏切られた衝撃と罪悪感より、少しだけ酒の心地よさと、理想の少年と夢を見た満足感が勝り、満足が優子の心を満たしていた。
実はフリード、あらかじめシャンパンの中に目薬を垂らしていたのだ。
優子は薄れ行く意識の中で、少年の声を聞いた。


「そうだ。あの時計、誰に買ってもらったか教えてあげようか?」

最早、騎士レックスの愛らしい顔も視界の中でぼやけていた。

「この部屋で僕を抱いた、与党の大物政治家だよ」

ロレックスを好む国会議員といえば・・・警察官僚出身で大臣経験もある保守系議員、及川龍造。
いかついこわもて顔が頭に浮かんだ。

そのとき優子ははじめて、レックスがスパイであることを悟った。
親米派の国会議員も自分も、この子に嵌められたのだ。
目の前の肉棒が、日米の外交史を作ってきたのだ。
レックスの身体をめぐって流された血も、あったかも知れない。

一瞬、特ダネを掴んだ、と喜びかけた。
けれど、日本にはスパイ防止法はない。むしろ自分が児童買春で逆に逮捕されるのがオチだ。

そもそも色仕掛けを好むのは旧社会主義国のスパイで、CIAはあまり好まないと本で読んだことがあるが・・・?
この期に及んでは考えるだけ無駄だ。もうやめよう・・・。

「今夜は楽しませてもらったよ。ありがとう、ママ」

(また、君とは会えるかしら・・・?)

最後に心の中で呟き、意識がなくなった。






翌朝、優子が目覚めたのは自宅マンションの玄関だった。
服は着たままで、バッグを確認したが何も盗まれていなかった。
けれど口の中にかすかに残るシャンパンの香りと火照った肌が、少年との夜が現実だったことを示していた。
時計を見ると午前7時半。

「まあ、こんな時間・・・」

大急ぎでシャワーを浴びた後、化粧を重ねたくり香水をふりまいて、タクシーでJBSに出社した優子。
梶川なつき主演ドラマのポスターや各番組別視聴率データが壁に貼られた廊下を歩いていると、「部長がお呼びですよ」と、若い男性局員が声をかけてきた。









こんこん。




「失礼します」




明かりの消えた薄暗い会議室に入ると、ブラインドを背に、報道部長が腕を組んで座っていた。


「まあ、かけてください」

何か説教されるのかしら?

「小圷さん。ゆうべは誰と、どこへお泊りでしたか?」

まさか王宮の寝室で、小説から抜け出してきた騎士と甘い夜を過ごしたと言っても信じてくれないだろう。
いや、そもそも子供と寝たなどと言えるわけもないのだが。

「プライベートに関わることですので、お答えできかねます」

きっぱりと突っぱねるように答えた。

「そうですか。嫌なら無理にお答えにならなくて結構です」

どこまで知られているのだろう?と、優子の脳がフル回転する。


「その・・・、外国籍のお子さんのお世話を?」

嫌なら答えなくてもいいと言いながら、ぽろっと漏らす部長。

「かわいそうな子だったんです。なので、彼女のそばにいてあげたいと思いまして」

『彼女の』をやや強調気味に言うと、「ふむ・・・」と部長は眼鏡を直した。

「わがJBSとしても、看板キャスターのスキャンダルととられかねない出来事を敢えて表ざたにはしたくないですから、今回は不問としますが、」

部長は優子が外国人との間に隠し子がいたのではないか、と疑ったに違いなかった。
想定されているお相手は決まってる。5年前、メジャーリーグから日本球界に来た白人投手と交際していた時期があり、雑誌に騒がれたからだ。

ふふっ、ベイツとは一緒にお酒を飲んだだけよ。あの人、実はガチガチのホモだったから・・・。

「以後、世間の誤解を招くような行動は謹んでもらいたい」

「はい、申し訳ございませんでした。」

優子は心の中でクスクス笑いながらも、神妙な面持ちで深々と頭を下げると、足早に会議室を後にした。
そしてスキップしながら、間もなく打ち合わせの始まる、お昼のワイドショーのスタジオに向かったのだった。




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