長い休暇が終わり、秋の授業がスタートしたが、俺の生活は休み前とほとんど変らない。
新卒の採用時期が早まる傾向にあって、大学でも就職ガイダンスが開かれ、そろそろ活動を始なければならないのだが、
とりあえず就職情報サイトのアカウントを取得しただけで止まっている。

今日は平日だが、休講で大学には行かない。
そのかわりバイト先のスーパーの店長に、「人手不足だから朝から入って欲しい」と言われた。
月に一度の特売日なのだ。

朝8時から品出し、10時に開店してレジ打ち。お昼を挟み、午後3時がシフト交代の時間だ。
パートさんにレジを交代し、返品の商品を売り場に戻すため、まだお客さんで賑わっている店内を歩いていると、
食玩コーナーで長い金髪の女の子がしゃがんで、菓子を物色しているのが見えた。

紺色のセーラー服を着ている娘さんは、フリードだとすぐに分かった・・・しかも今日はスカートだ。
もう少しでお尻の見えそうなひらひらの下には長くむっちりしたフトモモが伸び、純白のニーソックスの足下には革靴が光沢を放っていた。
仕草にどこか貴族階級のような気品さえ放つこの美少女は、このボロくて広くないスーパーにはあまりに不釣り合いな気がする。
俺は足音を立てずに近づき、フリードの背後に立った。

「何かお探しですか?」

「あ・・・・広瀬さん。久しぶり」

ふりむく直前、一瞬びくっと身構えたように見えたのは、俺を刺客か何かだと思ったのだろうか?

「しゃがみこんで、何してるの?」

「お買い物よ」

優しく声をかけたつもりが、俺の心の奥に押し殺しているはずの警戒心は顔に顕れていたらしい。

「そう、ケダモノを見るような目でウチを見ないでくださらない?結構さびしいんだぞ」

いや、ケダモノは俺のほうだよ。
仕事上がりの解放感と疲労感の中、憐れみを乞う瞳で見つめられると、君をムチャクチャしたい欲求にかられちまうんだ・・・
おっと、いかんいかん。まだ仕事中だ。 しかも目の前にいるのはこう見えて17歳の男の子なのだ。

「広瀬さん。この後、時間ある?」

「あ・・・あるけど・・・」

「少し、お話しません?」


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タイムカードを押してスーパーの裏口から出ると、細い路地にフリードが待っていた。
この街に住んで2年目。早くも第二の故郷みたく身近に感じつつある商店街を、二人で並んで歩く。

最近知ったのだが、俺の曾祖父が俺の実家に養子に来る前は、ここの近辺で生まれ育ったらしい。
どこかしらホッと落ち着くものがある居心地の良さは、俺を作っている遺伝子の記憶が呼び覚まされるからなのかも知れない。

ところで迷子の女の子を交番に送り届けるだけで逮捕されかねないご時勢、我ながら冒険ではある。
そういえば一ヶ月ほど前、フリードと出会ったのも確かこの道だっけ。
あれから何度か俺に接触してきたが、ハルの視線が怖くて、この子とじっくり話したことはなかった。

黙って歩いてるから、周囲からはまるで心で会話しながら身を寄り添って歩く、恋人のように見えたかもしれない。
はたまた、肌の色の違う遠い親戚か。
実際はフリードのほうから俺に身を寄せてきているのと、俺もフリードの真意がよく分からなかったから、
何から切りだせばいいのか分からなかっただけなのだが。




しばらくして、沈黙を破ったのはフリードだった。

「ねえ、今日はハルは?」

「学校に行ってるよ」

「えっ?」という顔をしたフリードは、心の底から驚いたようにびくっと肩を振るわせた。

「学校って??・・・どこの大学!?」

「いや、小学校なんだけどさ」

ハルは9月から近所の区立小学校に通っている。鈴村ハルキの名で。
最初は「嫌だ嫌だ、どうしよう」と大騒ぎしていたが、母が手を回したとなれば行かないわけにもいくまい。

「昼間っから出歩いてたら非行少年と間違えられるし、ヒューミント(人的情報収集)だって馬鹿にはならないんだから」

とか説き伏せられて、渋々通うようになったのだ。

「あのハルが・・・!ハルが地球の小学校って!!ハハハハハハハハ!苦しい〜〜!」

俺の横で腹を抱えて大笑いするフリード。

「フリードは行かないのか?」

「籍はあるんだけどね、調布に」

調布にアメリカン・スクールがあるのは俺も知っていたが、口ぶりからしてきっと、ろくに顔を出していないのだろう。

「ハルって訓練生の頃から、優秀成績で何度も表彰されてるのよ?」

「そうだったの!?」

「ええ・・・結局、サーベスには敵わなかったらしいけどね」

懐かしい目をするフリードを連れて、俺たちはファミレスに入った。


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隅っこの目立たない席に座り、ドリンク・バーを注文。
俺はホットコーヒー、フリードは紅茶に大量の砂糖を入れたものを飲んでいる。

「ねえ、スカートってどんな履き心地?」

「スースーして落ち着かないわ。もう慣れたけど」

「下着の上に何かはいてる?階段で下から丸見えだと思うんだけど」

ちらっと目線を下にやると、フリードは俺に真正面から意地悪い顔を近づけ小声で囁いた。



「見・て・み・る?今日は熊さんのパンティよ」



きっと、スカートの奥に、膨らんだ熊の描かれた生地が・・・



「だーっ!やめい!」

慌てて自分で自分を遮る俺。

「あら?広瀬さんにその気があれば、いつでも挟んであげるのに」

「いや・・・俺は・・・・俺はそんな趣味は・・・!!」

「ほらほら、素直になってみなさいよ」

言われてみて、少し考え込んだ。
フリードと出会った日。確かに新しいときめきを感じなかったわけではなかった。
俺は心の底で両親に謝罪しながら、踏み込むように思い切って言った。


「・・・服着たままでいいから、たまに抱かせてくれたら嬉しいかも」


「そのとき、ウチが日本に居たらね」

フリードは微笑み、音を立てずに紅茶を半分飲み干すと、一転して声色と表情が変化した。




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