アスト大学の宇宙戦士養成課程は、卒業後、宇宙戦士を志願する学生が多いことを受けて設置された。
アストの若者にとって、宇宙の平和を乱す怪物と戦い、人々の暮らしを守る戦士となるのは一つのステータスだったし、収入面でも悪くなかったのだ。
正規学科で卒業に必要な単位を7割以上、取得した時点で選考テストを受け、合格した者が受講できる希望者対象のカリキュラムで、
武器の扱い方や戦闘教練などを学び、卒業と同時に免許が与えられる。
宇宙戦士は身分としてはアスト防衛軍の軍人であり、アスト大学の養成課程を経なくてもなることはできるが、
「一発試験」は難関だし、また在学中にもかかわらず「入校」と同時に兵士の身分と給与が支払われるため、
アスト星人の宇宙戦士の9割以上はこの養成課程出身者で占められている。
全寮制で、数10人単位で幾つかの隊・・・それは部隊というより班の感覚に近い・・・に分かれ、集団生活を送る。
競争はあらゆる場面に及んだ。知能テスト、体力テスト、模擬戦闘訓練、スポーツ大会にいたるまで。
中でもロンバルド隊は歴代優秀な成績を残し続け、ハルのとき隊長を務めたサーベスは「アスト大学開校以来の逸材」と呼ばれた。
本名『サベスチャン・アストレイ』。ハルと同い年だが、学年は2級上にあたる。
さらさらのブルネット髪、二重瞼、鼻筋の通った端正な顔立ち。
まさに育ちの良い「優等生」だが、優秀なのは容姿ばかりではなかった。
学業成績、身体能力、判断力・・・など、他の隊長クラスを寄せつけない秀才で、
物静かで落ち着いた語り口は、聞き手をうっとりさせる魔力を秘めていた。
普段はおっとりした性格の一方で、戦闘訓練時には誰よりも勇敢に戦い、部下の寄せる信頼も厚かった。
アストレイ家はアスト星の元貴族階級の家で、サーベスはアスト星を代表する名門パブリック・スクールの特待生だったという。
パブリック・スクールを卒業したのなら普通はアルタイルの宇宙連邦大学へ進学するし、軍人になるにしても艦隊スクールなど、
上級士官学校へ進む道もあったはずだが、この優等生はアスト大学へ編入。宇宙戦士養成課程へと進んだ。
その理由は誰にも語ろうとしなかったから、きっと事情があったに違いないとハルは思った。
でも、敢えて問い質す気もなかった。素晴らしい男のそばに居られるだけで喜びを感じていたから。
だからハルもまたサーベスの下よく働いた。
アスト大学生の普段着は水色のカッターシャツに紐タイ、グレーの半ズボン、白ソックスである。
決して裕福な家庭の子の多いわけではないアスト大学の学生は、中学・高校と着てきた制服をそのまま着る者が殆どだった。
サーベスだけはパブリック・スクールの校章ワッペンが腕についた、白いカッターシャツを着ていて、
あたかも「転校生」のような風情を漂わせていた。
地球人留学生として、フリードも短い期間ではあったが、留学期間にロンバルド隊に属した。
太陽系から数千パーセク離れた銀河の中ほどに位置するアスト星までは、
最新の高速シャトルでワームホールを幾つか通り抜け、ワープを繰り返しても450時間ほどかかる長旅だ。
留学したての頃は、宇宙連邦非加盟の地球人であることを随分と怪訝な目で見られたが、
名高かった宇宙戦士、マフィールの孫であるに相応しい知性と身体能力を見せつけ、
宇宙連邦全域に浸透していた、「未開で野蛮な地球人」という偏見を変えるのに少なからず貢献していた。
← Back
→ Next
△ Menu