「おーーーーい、ハル!」
「ヒナタ!もう遅いーー!」

ぼろぼろのパイロット・スーツはもはや身にまとっているというより、裸体にまとわりついたボロ布と化していた。
前を隠しながら走ってきたヒナタがクラクトン側のシャッターまで辿り着いたときには、
二匹目のイータープラントは既に撃破されていた。

横で、殲滅姫とフリードがガッと拳と拳を突き合わせた。

「地球人もなかなかやるわね」

「急いで救急へ連絡!担架急いで!」

サーベスの指示が飛ぶ。
アゼルを吊り上げて運ぼうとするハルが目線だけチェスカのほうを向く。

「チェスカも手伝ってよ」
「なによハル、じろじろ見ないでよ」
「あーっ!サーベスやフリードには何も言わないのに」
「サーベスがそんなやらしい目で見るわけないでしょ?一緒にお風呂に入ったこともある仲なんだから」
「フリードはいいのかよ?」

「・・・この子は特別だから、いいの」

チェスカの言葉が放たれた一瞬、ヒナタの口元が苦笑いしたのは、ハルの気のせいだったか?






この事件では、心肺停止状態だった者は全員息を吹き返し、また傷ついた者も容態が順調に回復し、幸い犠牲者は出なかった。
しかし、大学敷地内へイータープラントの侵入を許したこと、救援隊が間に合わず、結果的に学生を見殺しにしかけたことなど、
アスト大の管理体制はメディアで大きく非難された。
調査はアスト防衛軍に委ねられ、ハルたちは入念な検疫ののち、事情聴取を受けた。


ところが、報道が落ち着き、事件のことも忘れかけた一ヶ月半後のある日。
突然、フリードは学長室へと呼ばれた。
講義の終わった昼下がり、食堂でハルやヒナタとお茶しているとき、職員に連れて行かれたのだ。
学長室には宇宙連邦軍の憲兵が待ちうけていた。
隅でサーベスがうつむき、悔しげに押し黙って目を閉じていた。


フリードはそのまま、スパイ容疑で拘束された。


新開発の反重力エンジンの設計図を、科学棟の資料室から地球に持ち去ろうとした容疑だった。
それも、チェスカのIDを使って入手した合鍵を使って。

イータープラントとの戦闘の前も、たまたまレーザーナイフの仕様書を密かに入手して読んでいた。
だからこそ、安全性に確証が得られないために公にされていなかった仕様、
すなわちレーザーナイフを戦闘モードに切り替えても、人体を斬っても無害である・・・という技術情報について知っていたのだ。

数日間の拘置ののち、大学から処分が言い渡された。


『規則違反で校外追放』


スパイは重罪だが、怪物事件で活躍したことが評価され、罪を恩赦されたのだ。
イータープラント来襲とフリードのスパイ計画との関連性はないと結論付けられたこと、
卒業生の孫というコネで非公式に地球人を留学させていた大学側の落ち度、
機密管理体制の不備について世間に騒がれたくなかった宇宙連邦軍の意向など、総合的な判断の産物だった。
いずれにせよ、刑務所にぶち込まれず、退学だけで済んだのは幸運だった。






フリードが地球へ向け出発する日、ロンバルド隊とクラクトン隊の隊員ほぼ全員が、命の恩人の見送りに来た。

「本来ならお別れパーティーでも開いて、楽しくパーッと送り出したいところだけど・・・、
事情なだけに軍や学校の目が光ってて無理だった。心残りだけど、どうか許して欲しい」

サーベスが言ったのに続き、ハルも口を開いた。

「次に会う時があるとすれば敵同士かも知れない。でも短い間だったとは言え、君との友情は忘れない」

名残惜しげに一人一人、握手して回る地球人の少年。

「あの、ありがとうございました!お元気で」

リハビリを終え、退院したばかりのアゼルが、元通りになった右腕を伸ばした。




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