新斗(しんと)は無数の光の粒になって、だんだん消えていく元悪魔の青年の影を見ていた。
同時に、鬼の腕輪の輝きも徐々に弱まっていく。
が、青年に抱かれた裸の美少年の身体は消えていないことに気付いた。

「まずい、兄貴が落ちる!」

青年が完全に消え去る直前、全裸の綾太(りょうた)の身体を受け止める新斗。
だが右腕を骨折しているため、左腕だけで支えなければならなかった。

「重い〜〜〜〜」

(ゆっくり・・・ゆっくり降下するわよ?・・・きゃーっ)

「うわあーーー」

どっし〜〜〜〜〜〜〜〜ん。

二人は市内の小さな公園に落下した。
途中木の枝に引っかかった上、新斗のバイオアーマーがクッションがわりになる形で、なんとか兄を抱き受けることができた。

(痛ぁい〜)

「腕がぁっ・・・腕がぁぁ〜〜〜」

落ちた衝撃で骨折した右腕を刺激し、ビンビンと強烈な痛みが伝わってくる。
けど今は自分の胸の中に眠る綾太のほうが先だった。
兄の背中の傷口から流れる血と、自分の傷だらけの身体から流れる血とで、
白いバイオアーマーは痛々しく真っ赤に染まっていた。

「兄貴・・・」

死んじゃったのかと思って、涙目で胸に左手を当てる。

(新斗!まだ綾太の心臓は動いてる!けどこの出血じゃ・・・)

「何とか助ける方法はないの?」

(腕輪をお兄さんにはめて、こすって!エネルギーは新斗から借りるわよ?精液は殆ど同質だから問題ないわ)

「分かった。兄貴を蘇らせるためなら、僕の残りのエネルギー、ぜんぶ使っていいから!」

(あたしの最後の力を綾太にあげる!絶対に死なせやしないんだから!)



新斗は変身を解除した。
あちこち切り傷だらけの、健康的で細く筋肉質な肉体が姿を現した。
木陰の草むらに綾太を仰向けに寝かせ、細い左手首に腕輪をつけて数回こすると、綾太の華奢な身体は赤紫色の膜に覆われた。
ヘルメットも合金装甲もない、膜だけの状態。
その綾太の身体の上に重ね合わせるように、俯せに寝る新斗。手と手を握り、造詣の違わぬ美しい顔が向かい合う。
兄の股間の膨らみあたりに自分の性器の位置を合わせると、ふたつの身体は完全に一体になった。

(じゃ、いくわよ?)

タイツ状の股間の膨らみから外側に触手が伸びてきて、新斗のペニスを包み込む。

兄の股間あたりの内側がうねうねと動いているのが分かる。きっと、細い触手が菊門をまさぐっているのだ。

二重の美しい瞼を閉じ、ゆっくり、こすりつけオナニーのように腰を動かす新斗。
小さな身体を張って、悪魔の攻撃から新斗を守ってくれた綾太。
こんどは僕が兄貴を救う番だ。

頑張って・・・もう一人の僕自身。

「膜」を介在し、こすれ合うおち◎ちんを通して、まるで神経がひとつにつながっているかのような感覚がした。
夢心地の中で、まるで綾太の記憶が流れ込んでくるように、兄とともに過ごした遠い過去の記憶が蘇ってきた。
沸き上がる、その一つ一つが全て愛しかった。

(ああっ・・・2人の綾太に挟まれてあたし・・・この1000年間で一番幸せ!)

新斗の股間に巻きつくイソギンチャクの動きはますます早まった。
だんだんたまたまが上がり、きゅんっとお尻が引き締まった瞬間、白濁液が兄のペニスの上で太い糸を引いた。
どくどくっ・・・ドクンッ・・・ピュルルッ・・・

それは兄と同じ美少年を作る男の子の種だった。
じわっと下腹部に生温かさが伝わるが、冷やされる間もなく触手が吸い取っていく。
新斗は腕の痛みに耐えながらも夢中で腰を揺らし続け、何度も射精した。
最後の一滴まで精を搾られ終えたとき、気を失ってしまった。







「・・・新斗?新斗!起きて!こんな寒いところでいつまでも寝てると風邪引くわよ」

新斗が目を開けると、見慣れぬ巫女さんの顔があった。
歳は16歳ぐらいだろうか?
眉が細く、茶髪の長くストレートな髪を後ろで結った、なかなかの美少女である。

「新斗・・・ああ、ようやく目を覚ましたのね」

「・・・あなたは誰?」

「やーねー、あたしよ。腕輪に精霊として封印されてた・・・」

砕けた腕輪を綾太の手首から外しながら説明するその声は、確かに聞き慣れた少女だった。
彼女こそまさに腕輪に封印されていた「精霊」の本当の姿だった。
ただ、このアニメ声だけ聞いているときはもう少し幼いと思っていたのだが。
だが彼女の説明は新斗には上の空で、日光を浴びて輝く茶髪に視線が注がれていた。

「あの・・・ヤンキーさん?僕、お金持ってないですから。カツアゲは余所で・・・」

言いかけると、少女はぷんぷんと腕を振り上げた。

「ヤンキーとはなによ、あたしが時代を先取りしすぎてるだけなのっ!」

前年の1992年頃から普及の始まった茶髪は、T市のような地方ではまだ「不良」という偏見が残っていたのである。


「そういえば・・・兄貴!兄貴は・・・?」

新斗の全身のあちこちにある切り傷には、応急処置でタオルが巻かれていた。
どこから調達してきたのか、巫女少女が手渡した大きな毛布を羽織りながら訊ねた。

「隣に寝てるわよ?ありがとう、一命は取りとめたわ。君のお陰だよ」

傍らで静かに寝息を立て、裸で横たわっている綾太にも毛布が掛けられていた。
相変わらず顔色は悪いが、死んではいないようだ。

「兄貴・・・」

涙目で笑顔を作る新斗。

「傷はまだ完全に塞がってないし、体力も低下しているわ。けどもうすぐ救急車、来るから安心して」


新斗は茶髪の巫女少女に顔を向けた。

「・・・で、これから君はどうするんだい?」

「あたしもお役御免してもとの時代に・・・平安時代に・・・帰りたいところだけど・・・」

「きみ、1000年も前に腕輪に封印されてたんだ?」

「そう。もっとも腕輪を作ったのはタイムマシンで平安時代に降り立った科学者だったんだけどね」

「ひょっとして君も未来から来たの?」

「かも知れないわねぇ。へへっ」

「あっ、誤魔化した」

「まあそれはいいんだけど・・・腕輪に封印されてから戻り方が分かんなくなっちゃったのよね。しばらくこの時代にいてもいいかしら?」

「君のことは何て呼べばいい?名前は?」

「神野聖良(かんの せいら)」

「うわっ、やっぱりヤンキーだ」

「こら〜、名前で差別しないの」


新斗と神野は並んで座った。

「ねえ・・・よく考えてみたら、君って僕らの全てを知ってるんだよね?その・・・恥ずかしいこととか」

「綾太と新斗のおち◎ちん、とってもおいしかったよ!またたまには・・・ね?」

うわっ、喜んでる・・・



あれこれ話していると間もなく、パトカーに先導された救急車が来た。

「こっち、こっちー!」

よく見ると救急車の後ろを、カメラを構えたテレビクルーが追いかけてきていた。
その中にマイクを持った小圷優子がいた。

「こっちです、こっちです。・・・綾太くーん!独占インタビュー申し込んでいいかしらー?」

新斗の前に駆けつけ、マイクを向ける優子。
その足下に、本物の綾太が横たわっていた。

「きゃっ!綾太君が二人になってる!これは一体・・・」

混乱している優子。
他の局や新聞社も駆けつけてきて、辺りはにわかに騒がしくなった。
面倒なことにならないよう、神野がさりげなく綾太の毛布を頭までかぶせる。

「都築〜〜〜!」

白いS130系クラウンが停まってドアを開け、走ってきたのは山下やクラスメートだった。
運転してきた山下母もブンッとクラウンの車体を揺らし降りると、駆け寄ってきた。

「ま〜〜新(しん)ちゃん、何て格好なの?ひどい傷。痛いでしょうに・・・」

と抱いてきて、若い養分を吸収するかのように、触手が毛布の隙間から新斗の胸肉に伸びて来ようとする。

それを強引に外し、「綾太くん、こっちで話しましょうか」と新斗を囲おうとする優子。
その手もさりげなく新斗の尻に近い腰に回っている。
女同士の視線と視線がぶつかり合い、バチバチと火花が飛ぶ。

「綾太!」

宮脇千尋が、生徒会の西城、富岡らと駆けつけた。

「綾太・・・しっかり!死んじゃ嫌よ!」

毛布に隠れた綾太を目ざとく見つけ、毛布をめくり上げようとする。

「はーい、ちょっと通りまーす。離れてくださーい」

マスコミや観衆を押しのけるように、警官が新斗たちを取り囲んだ。
綾太を守り、警戒し睨みつける新斗と神野に、女性刑事が優しく微笑みかけた。

「君たち、ちょっと事情を聞かせて。警察署まで来てくれるかしら?」

再びマスコミがざわざわと騒ぎ始めた。

「おーっと、ここで兜童子の少年を保護でしょうか!?」

「悪魔と兜童子はグルである」と的外れの批判をしてきた一部メディアは、
自社の垂れ流してきた説の間違いを認めたくないあまりか、鼻息を荒くして新斗に詰め寄ってきた。
警察とマスコミ、千尋、山下らクラスメートたちの押し合いとなり、あたりは騒然となった。

その時だった。

「静まれ!都築君は私の生徒だ!」

老先生がゆっくり、歩いてきた。
普段寡黙で温和な元校長が一喝すると、辺りはしーんと静まりかえった。

「都築君を一刻も早く病院へ!皆さんには私から説明しよう」

老先生は神野のほうを見た。

「お嬢さん、あなたも一緒に来ていただけますね?」

「・・・はい!」


担架に横たえられ、人工呼吸器をつけ、救急車に搬送される綾太の横顔に無数のフラッシュが焚かれた。
兄に「頑張れ」と声をかけながら、一緒に救急車に乗り込む新斗。
取り囲むクラスメートや市民の心配そうな顔を背景とした映像、写真とともに、
都築綾太が兜童子であった事実が新聞、テレビ等を通じ報道されたのは翌日のことだった。




Back
Next
Menu