実に1世紀半ぶりに、悪魔が復活したのは数ヶ月前とされる。

あの日から、T市には多くの災いが起こっていた。
この年、全国を襲った冷夏までが悪魔の仕業かどうかは知らぬが、農産物の被害は当然のことながら、
列車の脱線事故。火山活動の活発化。謎の疫病。発狂によって引き起こされる殺人事件・・・。
言い伝えにある悪魔の復活を疑う者は誰も居なかった。

悪魔の横暴に、行政側も無対応だったわけではない。
街中をパトロールする警察官を増員したり、消防・救急の緊急出動体勢の強化のほか、
県知事を通して自衛隊にも治安出動要請が出ていた。
だが「普通の」犯罪やテロと違い、地域規模で、およそ物理や自然の摂理を無視した数々の怪現象を巻き起こす悪魔の仕業については、
事後の被害を最小に食い止める努力はできても、未然に防ぐことは不可能であった。
唯一の方法は悪魔を倒すことしかなかろうが、ある警察官が悪魔の化身に発砲したところ、
悪魔は笑いながら銃弾をはじき返したというから、倒すのも容易ではない。
人々はなすすべもなく、ただ次に引き起こされるであろう災いが、
なるべく小規模なものであるように祈るほかなかったのである。

その強力な悪魔と戦えと、確かにリストバンド?は言った。

怖くなった綾太は翌日、学校で講師として歴史を教えている老先生に相談に行った。
日本史、各地域の郷土史、民話にも造詣が深く、「知恵袋」と呼ばれる老先生なら、何か知っていると思ったからだ。

先生は綾太を、別室に呼んで言った。

「よいか、誰にも言うな? 都築君、君は選ばれてしまったのじゃよ。それが天の与えた宿命なのじゃ・・・」

理不尽なのは分かっておるがの・・・君の力で、街の人々を救ってやってはくれまいか?

綾太は自分が選ばれた戦士であることを認めたくなかった。

自分は他の子より体育は得意だが、武道の心得は全くない、ただの子供だ。
学業とタレント活動を両立する多忙な毎日なのに、この上悪魔と戦っていてはいよいよ生活が破綻してしまう。
せっかく中学生活も仕事も軌道に乗り始め、人生が上向いてきた矢先、命がけで悪魔と戦いたくなんかなかった。

宿命って何さ? 人の都合も考えないで、勝手に決めるなよ!

綾太はリストバンドを、市街にかかる橋の上から川に投げ捨てた。

それで全てが終わったはずだった。




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