無言の夕食後、寝室でさっと宿題を済ませ、シャープの「書院」に15分ほど向かうと、ベッドに入る頃には午前0時を回っていた。
左腕にはリストバンドが銀色に輝いている。
肉体は疲れ果て、眠りこけたいはずなのに、車の中で中途半端に寝てしまったから寝つきが悪い。
多忙なタレントの中には、いつでもどこでも寝られる特技をもつ人もいるが、綾太はまだ若すぎた。

CDラジカセ「コブラトップ」から流れるJFN 「ジェット・ストリーム」に心身を委ね、布団の中で目を閉じていると、がちゃり、とドアの開く音がした。


「入るぞ、兄貴」

パジャマ姿の新斗だった。

「どうした?寝られないのか?」



新斗は無言でベッドに入ってきた。

「お・・・おい、今日はやけにくっついてくるなぁ」

お尻を向けて寝る綾太の背中に寄りかかってくる新斗。

「兄貴、今日のお風呂のこと、まだ怒ってる? ・・・ごめん、僕が悪かった」

「何をいまさら・・・長い付き合いだろ? 気にしてないよ。それより・・・僕こそ、ごめん。」

「なんで?」

きょとんとする新斗。

「仕事とレッスンが詰まってて、なかなか君の試合を見に行ってあげられない。お母さんから聞いてるよ。凄い活躍してる、って」

ふっ、と寂しげに笑う新斗。

「そんなこと、気にしなくていい。兄貴が厳しいレッスンと忙しいスケジュールに耐えて、頑張ってるって知っているから、僕も頑張る」

新斗は兄の肩を後ろから、柔らかく抱きしめた。
お兄ちゃんの・・・都築綾太の肩って、思ったより小さいんだな。


逞しく日焼けした手が、華奢な身体をだんだん下のほうへ這っていく。

「新斗・・・何考えてる?」

手が、綾太の若い胸肉をつまむ。

「アッ・・・」

美しい顔をしかめ、吐息が漏れる。


「なあ・・・どうして兄貴はいつもそうなんだ!? 何かあるとひとり抱え込んで・・・」

手が腰のほうへ移動していく。

「兄貴のカラダはね、兄貴のものだけじゃないんだよ?」

手がパンツの中に滑り込んで、綾太のおち◎ちんに触れる。

「アッ・・・新斗・・・どこ・・・触ってる・・・アアッ」

腰をよじる綾太。
新斗の手が慣れた手つきで、まるで自分がオナニーするかのように、兄の竿を弄び始めた。

「ひゃあうッ・・・」

ゾクゾクと快楽の波がビンビンと脳に伝わってきて、ガクガクと全身が震える。

ふふっ、性感帯の位置も同じなんだね、お兄ちゃん?

自慢の兄。憧れだった兄。そして・・・生まれ落ちてから今の瞬間まで、ライバルだった兄。
その兄の生殺与奪権は今、自分の手中にあるのだ。

「お前・・・アッ・・・自分のしている・・・ン・・・ことが・・ウアッ・・・・分かって・・るのか・・・?」

高く澄んだ声が歌っても、新斗は手を止めなかった。
皮の中で透明な汁が湧き出て、クチュクチュといやらしい音を立てていた。
高まった鼓動と熱い体温。汗びっしょりの背中。

「兄貴の身体はたくさんのファンの身体であり、そして・・・」

手が止まった。
かわりにきゅっと抱きしめた。弟の熱い股間が、尻に当たっていた。
その感触に振り返ると、新斗は涙を流していた。
澄んだ目と目が合ったとき、ややハスキーな声でワーッと泣き出した。

「僕、兄貴のこと、大好きだ! でもテレビで見てると、いつか僕のそばを離れて、
 どこか・・・どこか・・・手の届かない遠くへ行っちゃう気がする!」

(ああ・・・僕も・・・気持ちよくて遠くへイッちゃいそうだ・・・)

虚ろな目が新斗を見つめた。

新斗も涙に洗われた澄んだ瞳で、兄の顔をキッと見ていた。その目からまた、ボロボロと涙がこぼれた。

「お兄ちゃんがいなくなっちゃったら、僕・・・僕・・・」

(それ以上言うな)と瞳でたしなめる綾太。
目と目で意味が分かり、口をつぐむ新斗。


綾太は新斗に向き合うと、手を握った。

「僕はどこにも行かない。いつまでも新斗の兄だよ。約束する」

「本当に?」

「僕が君との約束を破ったこと、あったか?」

兄の小さな胸肉に顔を埋める新斗。
兄のパジャマで涙を拭うと、まるでお互いが、鏡を覗き込むようにキスした。
4つの澄んだ瞳に、全く同じ顔が映りこみ合う。

(いいえ・・・君が恋しているのはお兄さんじゃない。全く同じ顔を持つお兄さんに投影した、新斗君自身だよ)

鬼の腕輪が呟いた。

繊細な肢体と、筋肉。お互い生まれ落ちたときに失った片割れを求めあう兄弟。
それは健全で純粋な愛の営みであった。



・・・そりゃ、兄貴にも・・・親兄弟にも言えない秘密はあるんだろうけどさ。
・・・あんまり、無理するんじゃないぞ・・・。




・・・これから悪魔との闘いは激しくなるだろう。
・・・明日死ぬかも知れないし、こうやって君を抱けるのも、今夜が最後かも知れない。
・・・だから時間があるうちに、君に兄としてできることをしてやろうと思う。




ジェットストリームに乗せて、禁断の甘い夜は更けていった。





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