【7】


ロラントは数十人の武装した戦士を従えていた。
隊長を失った<マッド・デビルズ>は総崩れになり、ある者は逃げ出し、ある者は殺され、ある者は降参し捕えられた。


「坊主、大丈夫か?」

ロラントに揺さぶられると、少年は「ン…」と唸って目を開けた。

「その子はミーシャという名前です」

垂れ下がったペニスは半勃起状態になっていて、先端の粘膜も半分ほど包皮に隠れていた。

ロラントは毛むくじゃらの太い腕を差し出した。わたしも自分の名を名乗り、握手した。
このロラントという男の眼光そして振る舞いには、宗教者にも似たオーラがあった。
ミーシャももう少し成長したら、こんな立派な勇者に成長するのだろうか?

「リチャード!ミーシャくんに肩を貸してやれ」

ロラントはミーシャと同じぐらいの歳の、従者の少年に声をかけた。

「へへっ、同じ男同士なんだから。恥ずかしがるこたぁないからさ」

リチャードが腕をミーシャの肩に回したとき。

「危ないっ!」

リチャードの身体を抱いて倒れこむミーシャ。
次の瞬間、ストッと槍が地面に突き刺さった。
ミーシャが庇わなければ、リチャードの胸を貫いていたに違いない。

「まだ残党がいるッ、探せ〜〜〜!」

間一髪の光景を見て、あわててロラントの号令が飛ぶ。
幸いすぐにマッド・デビル隊員は射殺されたが、安堵も束の間の肝を冷やす出来事だった。

「あ…ありがとう、ミーシャ」
「…これでリチャードとはおあいこだ」


いつしか地平が白み、朝日が昇りかけていた。

「わたしの邑まではそう遠くないはずだ」


ロラントたちの馬に分乗させてもらって進む。
鞍に揺られていると、わたしのほうをじっと見つめるミーシャの視線に気付く。
眼で微笑み返したが、ふと薬のことを思い出して恐怖を感じた。
ミーシャはわたしをいつでも殺すことができるのだ。
わたしが薬を塗りこんだ直後に、身体に異変が起きたのだ。気付いていないはずはない。



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正午前、一行は湧き水の出る小さなオアシスで休憩した。
隅っこのほうでばしゃばしゃと、プロテクターと全身についた血糊を洗っている少年に近寄った。
そのペニスはもうほとんど萎んでいた。催淫薬の効き目が切れたのだろう。

近づくとミーシャもわたしのほうに顔を向け、「何か用か?」と目が言った。
わたしは跪いて頭を下げた。

「悪かった!本当にすまなかった」

少年は一瞬きょとんとしたが、やがてクスッと口元が笑った。

「あんたが悪いんじゃない」
「えっ…」
「おれにはまだよく分からないが…子を思う気持ちは誰でも同じなのだと思う」

空を仰ぎ、何かを思い出すように言う少年。

「親の思いがかなう世界を、早く作らなきゃ」
「ミーシャ…」
「あんたの娘さんがいつも笑って暮らせるような世界を、な。思っていたより、かわいかった」

表情のなかった目尻に少し、柔らかさを作った気がした。

「ひとつ願いがある。」

それはこの子の言う、出会ってからはじめての願い事だった。

「わたしにできることなら、何でも言ってくれ」
「すまないが少し胸を貸してくれないか」
「わたしでいいのか?」
「おれには親父に抱いてもらった記憶がない。もういちど、抱いてみて欲しいのさ」

昨夜みたいに・・・か?
一瞬、殺されるのを危惧したが、殺す気なら既にやっているだろう。それに今の瞳には殺気は感じられない。
ぎこちなく腕を広げると、真っ裸のミーシャが、まるでシルビアと同じように懐に飛び込んできた。
恐ろしげな拘束具を外し、一糸まとわぬミーシャの純粋な身体はわたしの腕の中で、その存在感よりずっと小さかった。
きゅっと抱きしめたまま何分も動かなかった。

わたしの胸の中で、どんな表情をしているのだろう?
頬に指で触れ、照りつける日差しにきらきら輝くブロンド髪を、やさしく撫でてやった。





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