【8】

一行は特に何の妨害を受けることもなく広野を駆け続け、
夕方前のまだ明るいうちに無事、わたしたちの邑の入り口まで辿りつくことができた。

「ありがとうございました。今晩はぜひ、お泊りになってください。大したおもてなしはできませんが…」

長老が申し出たが、ロラントは

「いえ、世界秩序の回復は一刻を争います。先を急ぎますので、また次の機会にゆっくりと」

と、申し出を断った。
わたしは傍らの少年のほうを見た。

「ミーシャはどうだ? しばらく休んでいかないか」

けれど、いつもの無表情な顔でこたえた。

「いや、おれも発つよ」

「えーーっ、もっといろいろお話したいのに」

残念がるシルビア。

ロラントがミーシャの腕に手を回す。

「一緒について来ないか? 歓迎するぞ。志を同じくする仲間を募っているんだ。
 法の秩序の下、人々が平和に暮らせる世界を作る仲間をな」

しかし、ミーシャの口元はシニカルに笑った。

「おれはまだあんたの目を信用していない。
『やつら』と同じく…、おれの子種が欲しいだけという可能性もある」

するとロラントは、「おーおー」と呟き、両手を逆ハの字に上げる仕草をした。

「ちぇっ、つまんないな。折角いいダチができたと思ったのにさ」

とリチャード。

「すまない。おれは自分が正しいと思った判断にしか従わないタチでね」

髭顔でミーシャの顔を覗き込むロラント。

「そうか。信用できるようになったら、いつでも拙者のもとへ来い」



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村人たちに見送られ、数10頭ほどの騎馬団と一人の小さな影は別々の方角へ向けて歩き出した。

「じゃ…元気でな、おっさん」

名残惜しいわたしたちを後目に淡々と言い残すと、少年は背を向け、ゆっくり歩き出した。

「ミーシャ!」

数歩歩いたところで呼び止めると、立ち止まり振り返った。
何か言おうと思って呼んだのではなかった。今このときが最後のお別れになるかもしれない予感を感じたから。
わたしは心に浮かんだ思いを正直に、叫んだ。

「寂しくなったら、いつでも戻ってきていいんだ!」

ミーシャは表情を変えずに無言のまま突っ立っている。

「第二のお父さんになってあげるから!」

わたしの言葉に一瞬、驚いたように目を見開いたあと、初めて顔全体で笑った気がした。

「…ありがとう。親父」

ミーシャの笑顔にこたえるように、わたしは思いきり叫んだ。



「ダ・スヴィダーニャ!(さようなら!)」



すると少年も叫び返した。



「ジラーユー・ヴァム・シャースチヤ!(幸せにな!)」



美しい若者はふたたび背を向けて駆け出し、二度と振り返らなかった。
わたしはシルビアと手をつなぎ、小さな勇者の背中が見えなくなるまで見送っていた。





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