【エピローグ】


以後、半月ほどたって、邑にはロラントの部下、戦士アトラスの軍隊が駐屯。
安全を聞きつけた難民が周囲から大勢集まってきた。
食糧は不足気味だったが、マッド・デビルズらによる略奪の心配はなくなった。


永遠に続くかと思われた暗黒の世が終わり、法の秩序を復興する足がかりとなった、
新世界政府が樹立されたのは5年後のことであった。
カルロスが殺され<マッド・デビルズ>が完全に壊滅し、
新世界政府が地球のほぼ隅々まで治安を回復するにはさらに30年ほどかかったが、
有史以来戦乱の絶えない地域があったことを思えば、
半世紀にして世界が平和へ立ち直ることができたことは歴史の快挙であり、
それを成し遂げることができたのは、近代文明の種火が完全に消えてはいなかったからだと思われる。

新世界政府を樹立したのは、ボーラーというゲルマン人の指導者だった。
ボーラーを筆頭リーダーとして、その下に集った何十人かの英傑…
…白人から黄色人種、アフリカ系まで多様だった…が名を連ねていた。

口髭を生やしたロラントはボーラーの右腕として活躍した実績を買われ、新政府の閣僚にも参加していた。
ところが僅か数年後、ロラントは汚職が発覚して逮捕され、政界から追放されることになる。
告発したのはロラントの腹心と思われていたリチャードだった。
後年、リチャードはこのときの心情について、「自分が正しいと思った判断に従った結果である」と回想した。
若くして頭角を現した青年はさらに10数年の後、世界政府の大統領に就任。
数々の改革を成し遂げるとともに、以後末永く続くこととなる平穏な世の土台を築き上げ、
最も偉大な政治家の一人に名を挙げられることとなった。

中央政界で繰り広げられる仁義なき権力闘争とは無縁に、わたしは平和な邑で娘夫婦と幸せに暮らした。
しかし、ミーシャ少年…ミハイルを再び見ることはなかったし、誰に聞いても、その名を見たという人はいなかった。
あの子はどうなったのか? それだけがわたしの心の隅に残り、たまに思い出されては引っかかる気がかりだった。





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