「ぼくが……ぼくがいけなかったんだ。気持ちいいことに気を取られたぼくが……」
クィーンセイバーの動きが鈍った隙を突き、胸部に自爆攻撃を仕掛けてきたプテラ。
あと0コンマ何秒か機体を下げるのが遅れていたら、隆也のいる下部コックピットが破壊されていた。
駆は己の身を犠牲にして隆也を救ってくれたのだ。
「うわああああああああああんっ!!」
声を上げて泣いたのって、何年ぶりだろう?
パイロットスーツの裏側で、まだ触手はモゾモゾ動いていた。
でも悲しみで一杯で感じる余裕など、もうなかった。
ああ、カケル! きみはなんてやつなんだろう?
鮮血と一緒に、小さな青と白の布片…パイロット・スーツの破片…が足もとに流れ着いた。
カケルは落ち込んでたぼくを励ましてくれた。一緒に走った。カードゲームした。夜遅くまで、いろんなことを話し合った。
さっきまで力をあわせて戦ってた…!!!
ぼくは自分の役割を果たすことができなかった。弱い自分に負けた…ごめん……!!
涙は止めどなく頬を伝っていた。
でも、モニターに映った駆の大きく開いた口は、隆也に訴えているようにも見えた。
『いつまでも泣いてんじゃないぞ。ぼくがいなくたって、一人でも戦えるだろう?最後まで勇気出せ』って。
クィーンセイバーは一人で動かせなくはないのだから。
(ごめんね、お葬式もしてあげられなくて、ごめんね…!!)
意を決した隆也は腕で目を拭った。
ボコボコに歪み、液晶の滲んだモニター画面に映る憎きプテラの姿。
「いくよ…」
ふらつきながらも走りだす片腕のクィーンセーバー。
(ベーブルースだって片腕でホームラン打ったんだ!)
けど動かす足取りは重い。いままで駆が一緒にいてくれたことの意味が突き刺さる。
「どわぁぁぁぁっ!!カケルの仇!!!」
一体のプテラに突進していくクィーン・セイバー。
頭突きがくちばしを折り、そのまま機械獣の顔を潰した。
爆発の閃光が精悍な少年の横顔を照らす。
「ぼく一人だって……」
全身から舞い散る汗。隆也の湧き出がる気迫に負けたのか、全身に絡みついていた金属触手の動きが止まった。
地面を蹴り、重い巨体がふわっと舞い上がる。
(みてて、コーチ。カケル!!)
片腕に全体重をかけてプテラの脳天を突く。
ひしゃげ、砕け散る機械獣。これで二体目!!
「てやああああああっ!!」
着地し、切りかえしたステップで三体目のボディにパンチを与え、近接戦闘用のレーザーブレードで目を突き刺した。これで三体目!
…の、はずだった。
が、手ごたえがなかった。
「えっ……」
気がつくと眼前のモニターいっぱいに、プテラの顔が大写しになっていた。
くちばしが画面の中央を突き、金属のへしゃぐ音とともに前面の壁が凹む。
「やだ……」
ガンッ!ともう一突きされると、目の前のモニター画面ごと壁がはがれ落ちた。
肌を撫でる冷たい外気とともに、夕日が差し込んできた。眼下には紅葉しかけた森林が広がっている。
胸部装甲が落下し、地上40メートルの風に吹き晒される隆也の身体。
目の前には3体のプテラ。赤い六つの目が隆也を睨みつけていた。
不気味なモーター音とともに、金属の腕が開け放たれたコックピットに忍び寄る。
(はやく…はやく脱出しなきゃ)
なのにシートベルトが思うように外れない。
仮に外れたところではしごも、パラシュートもない。
正面のプテラの一羽が口を大きく開け、巨大な砲口がこちらを見つめていた。火を噴けば何もかもが終わる。
処刑を待つ罪人のようだった。死ぬのはこわいこわいと思ってた。
でも本当に死が迫ると恐怖さえ忘れることに気付き、ただ呆然としていた。
(ああ〜〜〜っ…やばい……)
再び死の恐怖が迫ってきたのは、砲口の裏側から無数の、プテラのミニチュアのような機械鳥がわさわさとあふれ出したときだ。
4〜50センチほどの鳥は赤い目を光らせ、たちまち少年の身体に群がった。
「ひっ…やだよっ……やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
金属の鋭いくちばしが、隆也の逞しい肉体をついばみ始めた。
グチョグチョッ!!グチュッグチッ…!!
肩、腕、胸肉、腿、すべすべのすね……肉片が飛び散り、たちまち血まみれになる。
かたわらにかかってた千羽鶴が血飛沫に濡れる。
「ああ〜〜〜!痛い!痛い痛い〜〜〜!!」
下を見ると、おなかから流れ出たピンク色の腸を食い散らかしてる。
ピンッ!と乳首をついばまれ、ツツーッと血が流れる。
「あぎいいいいッ!!」
なぜ、砲撃一発で殺さなかった!?
全身を引き裂かれる飛び跳ねたい激痛に耐えながら、駆の言ってた言葉を思い出す。
<デッドカイザーは人間の弱い部分を突いてくるらしい>
わざわざ苦しめて殺すということだ。
肉体的にも、精神的にも。パイロットを一人ずつ殺したのも、心をいたぶるためだったのかもしれない。
「いやだあああああああああああ!!」
頭が急にくらくらしてくる。脳内麻薬が分泌されて、痛みを抑えてるのだ。
だが腰にひときわ強い痛みを感じ、ビクッと尻が浮く。座面との間に濃くて白い、天才スポーツマンの遺伝子がぬめっと糸を引く。
くちばしが巻きついた金属触手ごと、男の子のもっとも敏感な、大事な一部分をついばみ始めたのだ。
「あぎゃあああああああっ!!」
ああっ、ぼくはここで死んでいくの…!?
夕日に染まった巨大ロボットは立ち尽くしたように完全に沈黙し、蓋のなくなった胸部は群がる機械鳥の群れの餌場と化した。
少年の高い絶叫が、色づいた木々の山にこだましていた。
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