「へぇーーっくしょい!!」
「うわぁリュウッ、鼻水飛ばすな!…はっ…ハックシュンッ!」
少年たちは濡れた小鳥みたいに、同じ毛布に包(くる)まって抱き合っていた。
ぼろぼろのパイロットスーツは鳥肌まで透けてしまいそうだ。
ふたりはクィーンセイバーが母艦へぶつかる数秒前に海へ飛び降りていた。
母艦の装甲の薄い部分を予めスキャンしておき、駆が変化球を投げる要領で機体をぶつけるようにコース設定したあと、胸部ハッチを開いたのだ。
秋の冷たい海へ落下し、クィーンセイバーの残骸に掴まってバタ足していたところを救難ヘリに拾われたのだった。
クィーンセイバーは機体自体が巨大な弾丸となって母艦に深くめり込み、道連れにする形で、何度も水中爆発を起こしながら海底へ沈んでいった。
ヘリポートで降り立ったときには、マスコミのカメラの砲列とおおぜいの市民が待ち構えていた。
するとおち○ちんのぴったりはりついたパイロットスーツを隠しもせず、フラッシュの洪水の中、二人で笑顔で手を振ったり、肩を組んだり、
ポーズをとったりして声援にこたえるのだった。
「おめでとう。でもあんまり調子に乗るなよ、隆也」
そこには陸上クラブのコーチの姿もあった。
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もみくちゃにされたあと、迎えの車でいったん基地に戻ると、スタッフたちが総出で出迎えてくれていた。
「あれ? 松岡司令は?」
駆が気付くと、女性オペレーターが
「うーーーん、ちょっとね……」
と苦笑いしたまま、それ以上は語らなかった。
(あ、誤魔化した)
(なにか隠してるね)
瞳同士で会話する駆と隆也。
「リュウちゃん!カケルちゃん!」
「木村おばちゃん!?」
抱きしめられ、髪を撫でてくれたおばちゃんの懐で、ふたりの涙腺が破裂した。
「二人とも小さな身体で、よくがんばったねぇ…よしよし」
それは基地の中で、温かさで包み込んでくれ、安心できる唯一の場所だった。
「さあ、ついて来なさい。よく無事で戻ってきてくれて…あたしゃ嬉しいよ」
基地の奥でご褒美でもくれるのかと期待し、おばちゃんの後ろをついて行ったのが甘かった。
このあとふたりは医務室で身体に異常がないかどうか、数日間にわたって飲まず食わずで検査を受けた。
「ほらカケルちゃん、リュウちゃんも!もっとよぉく見えるように股を開いて」
木村トレーナーの怒ったような顔が、虫眼鏡を片手に迫る。
全裸でベッドに仰向けに寝かされ、ふんわりしたタマタマの後ろ、綺麗な菊門をヒクつかせながら泣きそうな駆。
「なんで終わってからもこんな目に遭わなきゃならないんだよぉ〜〜〜」
隣では「早くおうちへ帰って寝たいのに…」と、ブツクサ不満顔の隆也が逞しい腰を突き出す。
外傷を受けたはずの跡は何もなかったかのように、綺麗に治癒していた。
綿密な検査の末、健康状態に異常ないこと(少し風邪気味である以外は)が確認されてからようやく、
二人はいつもより少し大きなパンケーキにありつくことができた。
それから家に帰されて初めて、松岡元司令逮捕の事実を知ることになった。
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