エピローグ


数ヶ月後、デッドカイザー来襲のため延期になっていた学校対抗のソフトボール大会が開催された。
隆也のクラスと駆のクラスはそれぞれ決勝まで勝ち進み、対戦することとなった。

超満員のスタンドから盛んな声援が飛び交う中、9回裏同点・1アウト・ランナー3塁という状況で、ピッチャーの駆と隆也が対決する場面があった。
女子ソフト部にもいそうな美しい顔立ちのピッチャーは首筋まで伸びたさらさらの長い髪が、帽子からはみ出ている。
ベルトの食い込んだ細い腰がうねり、球が繰り出されていく。この突き刺したら容易に貫通しそうな薄いお腹に、美しい内臓が詰まっているのだ。

迎え撃つバッターは程よくムチッと筋肉の締まった、可愛い顔をした少年。
見かけより強靭な少年アスリートの肉体は、この試合でヒットや盗塁を量産していた。
隆也の筋力はサヨナラホームランを期待されたが、結局一球め見逃しストライク、二球目打ち上げファウル、
三球目は変化球で空振り三振と、あえなく撃沈されてしまった。
でも次のバッターがサヨナラヒットを打ち、試合自体は隆也のクラスが優勝した。

「残念だったね、カケルくぅん」

嫌味っぽく声をかける隆也に、

「さいご、リュウに勝てただけでもよかったよ」

と返す駆。

「三球目は、母艦をやっつけたのと同じコースのカーブだったんだけど」
「最後は直球で勝負してくると思ったのに。カケルって変なところで捻くれてんだよな」

駆の出発の日は、その一週間後に迫っていた。


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デッドカイザーの地球侵略失敗は全宇宙で一大ニュースとなっていた。
アーク星の敗残兵や難民たちが中心となって再結集し組織されたアーク亡命政府は、親友とともに地球を守りぬいた戦士、駆の存在を知った。
今は亡きアーク星女王の末子、カリン姫の血を引くカケル王子の存在を。

この知らせが舞い込んで、一番びっくりしたのは当の駆本人だった。
自分がアーク星人のハーフであること以外、身元に関する情報を何も知らなかったからだ。松岡元司令も含め、NSDD内でも知っている者はいなかった。

カケルは亡命政府軍に強く請(こ)われ、アーク星で生き残ったただ一人の王族男子として反撃作戦の先頭に立つことになったのだ。
宇宙にはまだ他にも、デッドカイザーの侵略にさらされてる惑星がいくつもある。野心に満ちた残忍な機械獣どもの息の根を断つまで戦いは終わらない。

カケルが己に与えられた使命を隆也に伝えた日、隆也は「ぼくも一緒に行きたい」と言った。

「一人ぼっちで宇宙の果てまで、生きて帰れるのかも分からない戦いに出ちゃうのは見過ごせない」と。

でもカケルは断った。

「リュウにはこれから、デッドカイザーの攻撃で荒廃した地球を立て直す仕事があるだろう?」って。

「なんでカケルだけが行かなきゃいけないんだ!ぼくたち、ともに戦った仲間だろう!?」
「アーク星とは関係ないリュウを巻き込めないよ」
「せっかく…せっかく二人とも生きてるのに…」
「ぼくを待ってくれてる人たちの期待に応えたいんだ。これはぼくにしかできないことなんだよ」

かなり紛糾し、まるで出会って間もない頃のような言い争いにもなった。
が、「むしろ引き止めることが、かえってカケルを悩ませる」ことに気付き、隆也もようやく引き下がった。
善意が人を苦しめることだってあることを知ったのだ。




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