S-14 ベルリン近郊


何時間飛んだのだろう?
ベルリン市街が近くに見えてきて、ジークベルトは高度を落とした。

「で…これ、どうやって止まるのさ」とアンディ。
「魔力を逆噴射すれば制動がきくと思うんだけど」

徐々にジークベルトが魔力を絞っていく。
着陸できそうな広い場所を見つけると、高度100メートル、50メートル、10メートル、5メートル、3メートル…徐々に降下していく。

「おいっ、早く止めないとぶつかるぞ!?」

ピョコンと跳ねた髪がハッとしたときには、前方には木々が迫っていた。

「やぁっ、ふたりともつかまって〜!!」
「どわあああっ!!」

急制動がかかり、勢いあまって三人とも前のめりに茂みに投げ出された。

「いてててて…、みんな骨折してないかー?」

ムクリと四つんばいになったアンディの隣でクルトが伸びていた。

「クルトが息してないよ!大変だよ」
「そういやさっき、飛んでたときから元気なかったよな」
「きっと、酸欠気味なんだよ」

アンディはクルトを仰向けにすると、寄り添うようにうつ伏せに寝そべった。

「ジークベルト。1分だけ後ろ向いてろ」
「な…何が始まるの?」
「いーから後ろ向け!!」

ジークベルトは数十秒後、後ろでバチーン!っという音を聞くまで、後ろを向き続けた。

「はじめてのキスだったんだぞ!?」

クルトの声がした。

「へへっ、オレじゃ不満だってのか」
「ヴァルトラウトとチューしまくってるきみと一緒にするな!」
「あーーーもうっ、やめてよ。きっと人工呼吸してくれてたんだよ」

ジークベルトが手を伸ばし、割って入る。

「…一応、礼は言っとく。ありがとう」

そう言いつつも目線をそらし、顔が少し紅潮していたのは、口惜しさからか、それとも恥じらいからだろうか?

あたりは薄暗くなっていた。
3人は小さな結界を張って、木の下で互いの服を伸ばして包まって、向かい合って抱き合うように寝た。
お互いの体温を分かち合うように。

「ぼく、お兄ちゃんと大空を飛行機で飛びまわるのが夢だったんだ」

星空を見上げながら、ぽつりとジークベルトが言った。

「エリク・シュナイダー少尉…か。いいお兄ちゃんだったんだな」
「うち小鳥を飼ってたから、ずっと空を飛びたいなって。お兄ちゃんと一緒ではなかったけれど、空を飛ぶ夢はさっき、かなっちゃった」

思い続けていれば、きっと夢はかなえることができる。
でも、元見た夢の形そのままに実現することは人生の中でとっても、少ない。
けれど神様のイタズラか、現実にあわせて姿を変えて、ある日突然目の前に現れる。

「…ぼく、まだ兄ちゃんはどこかで生きてるって、思ってるんだ」

一筋の涙が頬を伝って流れ落ちる。

「つらいときほど、どんだけ人の役に立てるかを考えるんだ」
「アンディ…」

「そうとも。狙撃兵に狙われた僕を庇ってくれただろ? ジークベルト。あの時、とても嬉しかったのさ。『見殺しにしない』って言ってくれたアンディも」
とクルト。

「今まで自分が一番だって思ってた。でも、一人じゃ何もできないヤツなんだって気付いちゃった」
「そんなこと、ないよ。クルトはぼくを助けてくれたじゃないか」

「ぼくは今まで、あらかじめ敷かれたレールに乗っかってここまできた…」
「オレだって似たようなもんだぜ? わりとこの中じゃ、ジークベルトが一番自立してるのかもな」
「ぼくはただ周りに担がれただけだよ。本当は凄く気が弱くて、寂しがりやです」

ニュース映画で見た顔が、クスッと笑った。
彼の笑顔には人に自然と活力を与える、何か魔法のようなオーラがある。

「おーおー、少年少女のアイドルがよく言うぜ。飛んでるときはスピードが増すたびに目が輝いてたのに」
「いや、ほんっとぼく、一人じゃだらしなくって、小さいときからおにいちゃんに甘えてばかりで…今生きてられるのが不思議なくらいで…」

「とにかく。これからは道を自分たちの手で切り開くことになるわけだ」
「危険な戦いだけど、結末を最後までこの目で見届けるんだ。平和な時代を再び生きることができるように、今はただやるべきことを果たそう」

「3人で、どこまでもいこっ!レールのない道を、どこまでも」

そう。夜空に瞬く三つの恒星のように。
たとえこの世界が暗闇に包まれても、勇気を燃やし続ける限り輝き続けるだろう。

いつしか子供たちは寝息を立て、しばしのまどろみに落ちていった。
心を一つにして、互いのいのちの鼓動を確かめ合うように。



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