S-17 ハルツ山地



ドイツ国内にいる魔法使いの保護は、魔法協会プロイセン支部に残された名簿を元に、オスカー支部長とフィリップ中佐が中心となって行うことになった。
けれど魔道書回収の任務は子供たちに託された……魔族への備えもあるため人員は割けないし、大人がうつろくと目立ってしまうためだ。

「あとは、ケルンだな」

ドイツ全土に散らばった魔道書を集めるのは、ガーベルシュタイン家に受け継がれた魔法技術なくしては困難を極める。
もちろん魔法協会の得た、魔道書に関する情報はフランカを通して逐一クルトたちに提供されるが、捕捉に使用するグリモワールは1冊しかない。

「時は一刻を争う。ハルツ山地を越えよう」

ハルツ山地はドイツのほぼ中央に位置する山岳地帯だが、ベルリンからケルンまで直線で飛ぶと、丁度その真上を越えることになる。
ごつごつした岩に覆われた山頂と断崖、豊かな森は雪化粧し、魅惑的な光景が眼下に広がっている。

飛行しながら、アンディとクルトがおしゃべりしている。

「フィリップ中佐とアンディ。仲のいい親子で羨ましいよ」
「なんだそれ、厭味か?」
「いや、本気でケンカ出来るのは心の底で信頼し合ってこそさ。ぼくの父さんはずっと海外で、年に2,3度しか会えないから」
「なんだよそれ、羨まし!」
「父さんとは分かり合うどころか、どんな人間なのかもまだ、よく理解してないんだ。にしても、風が冷たいな」
「空を上昇して太陽に近づいたら、もっとあったかいんだろうなって、思ってたんだけどなぁ」
「きみはギリシャのイカロスか? 墜落するなんて縁起でもない…」

「二人とも。もうすぐブロッケン山のそばを飛ぶよ」

『箒パイロット』ジークベルトがアナウンスする。

「懐かしくないか? 僕らドイツ地方の魔法使いの故郷だよ。はるかな昔、この地方を統治していた一族から枝分かれしていったと伝えられている…」

とクルト。

「僕ら、ひょっとしたら遠い親戚なのかもしれないね」
「だったら年長のオレの言うことをもっと聞け」
「わぁー見てっ、右前方に綺麗な村の家並み」
「って、聞いてねーし」

細面の少年の表情が引き締まった。
そして静かに祈った。

ブロッケン山の魔女たち、僕らを守って。
人類が悪魔と踊り狂った、この【ヴァルプルギスの夜】を終わらせ、ふたたび春を訪れさせるために!

 

(※筆者注・・・下図の青矢印はビルケナウ→ベルリン、赤矢印はベルリン→ケルン。途中、ハルツ山地のブロッケン山の上を通る)






 Back
 Next
Menu