『事後処理』の後、ジークベルトがエリクに二人を紹介した。
「改めて。こっちがアンディで、こっちがクルト。何度もピンチを助けてくれて、何とか切り抜けてきたんだ。
ふたりがいなかったら、きっとぼく、今頃生きてなかったよ」
「兄として感謝するよ」
エリクは頭を下げるが、成長期にもかかわらず3人との年齢差を感じさせない。
「いや、どっちが助けられてんのか分からないよ」
「おっ、クルトもちょっとは他人を認めるようになったんだな」
「いいなぁ。ジークベルトにはこんな優しい兄さんがいて」
「クルト?
前にも言ってなかったか?似たようなセリフ」
そのとき頭上の遠くで、ズーンと重いものが落ちたような音がした。
「今度は本当に爆弾だな」
「あまり時間は残されてない。急ごう」
「エリク中尉も力を貸してくださいますよね?」
「ああ、もちろん。それと、ぼくのことはエリクでいいよ」
4人が地上に上がると屋敷は無事だったが、遠くの山で黒煙が上がっていた。
早速、箒と地図を囲むと相談を始めた。
「この箒、4人は定員オーバーだろ。3人でもギリギリだったし」
「箒は2本ある。回復魔法を使えるのは、クルトとアンディの二人かな?」
ジークベルトとエリクが箒を操縦し、それぞれの背中の後ろにアンディかクルトのどちらかが分乗して飛ぶことが決まった。
「エリク中尉…じゃなくてエリク。目見えるんですか?」
アンディが尋ねると、
「だいたいの高度は身体が覚えてるし、魔力で方角や周囲の状況は探知することができるけど…」
「じゃあ、ぼくがお兄ちゃんの目になるよ。前を飛ぶから、ついてきて」
「わかった。少し魔力が回復するのを待って、出発しよう」
こうして四人になった「ドイツ魔法騎士団」の、魔道書回収作戦はスタートした。
行動範囲はドイツ全土に及んだ。
グリモワールが地図上を照らす、白くきらめく点。幸い発動中の赤い点は見当たらなかったが、
数十箇所にもばらばらに散らばった点の中には、既に連合国軍により占領された地点や、辺境の山奥なども含まれいた。
それらを1個ずつ回収していくのが役割なのだ。時間との戦いだ。
何度も命を危険に晒し、たびたび魔族からの妨害にも遭ったが、魔法協会の協力もあり回収は進んでいった。
そして最後の1冊を封印し終えたのは、5月5日。
ドイツ軍が降伏し、戦争が終わる二日前のことだった。