S-10 ファフニールとの決戦

 

ドラゴンの爪先が、ジークベルトのやわらかな睾丸を弛緩するように弄んでいる。
今や少年騎士ではなく、ドラゴンにいいように嬲られるお姫様だった。
「白いスク水」はビリビリに裂け、あちこち開いた穴から瑞々しい素肌が露出している。

ファフニールの恐ろしい姿を見ないように顔を背け、目をギュッと閉じて恐怖に震えていた…

「あンッ…やっ…アアアッ…」

でも股を閉じることはできなかった。竜の機嫌が悪くなるし、それに気持ち良くって、快楽を拒むこともできないし〜〜

ドラゴンの舌の先端は蛇のそれのように細く、先端が割れている。
その先は菊門の奥深くまで突きあがり、イボイボがおちんちんの裏側をゴリゴリと擦っている。

ぬちゃっ…ずちゅっ…

(お尻って、こんなに気持ちいいなんて…)

男の子の陰核をほじくるピストンはだんだん太く激しくなり、狭かったアナルはほぐれ、広がってきている気がする。

「ああーー〜〜〜ン……」

ピュッピュルッ! ドクッ!

射精した精を美味そうに、鼻息荒くしゃぶる竜。
少年の分泌する、若く良質な魔法因子を味わっているのだ。

(ああ…ぼく、このまま殺されちゃうのかな? ひょっとしたら、天国には既にお兄ちゃんが待っててくれて…)

その思いを吹き飛ばすように、ブンブンと首を振る。

「だめだだめだ!!」

お兄ちゃんはまだどこかで生きてるに違いないんだ。
ぼくが先に逝ったら悲しむよ。
それに、おにいちゃんにはこんな格好、見せたくないもんね…

夢心地に、エリク兄ちゃんの顔が浮かんだ。

お兄ちゃんが魔法の手ほどきをしてくれた日。
ぼくを魔獣から守ってくれた。
そばに立って、何度も根気良く教えてくれた…!!


雪化粧の大地の中、ただ一人訪れた春の夢心地の少年騎士。
その肉体の内側で、小鳥のさえずりが心の中で聞こえていた。フルートみたいな優しい音色で。
幼い頃、お兄ちゃんと飼ってた小鳥の歌。

けれど繊細なフルートの響きもマーチでは力強いトリルを奏でて聴衆に勇気を与えるが如く、今は小鳥のさえずりが少年に勇気を与えていた。
雪を握りしめ、かじかんだ手がピクリと動く。

そうだ…。

『魔族の顔をまともに見つめることができないものは、その正体がつかめないから、うまく戦うことはできない…』

お兄ちゃんが教えてくれた、誰か作家の言葉だったと思う。
自由都市ハンブルクの市民であることに誇りを持っていたお兄ちゃん。
泣いて帰ったときはいつも髪にブラシを通しながら、抱きしめてくれた。

『このピョコンと起き上がる癖毛みたいに、何度でも起き上がればいいのさ』

そのあと、どんな相手でも仕返しに行ってくれたお兄ちゃん。
あなたが死んだとはまだ認めちゃいないけど…、同じ血はぼくにも流れてるんだ!

ジークベルトは目をカッと見開くと、自分の腰を舐め続けているケダモノを睨みつけた。

勝てるかどうかは分からない。
でもっ…最後まであきらめないっ! ぼくは自分にできることを力の限りを果たすんだ!
だって、"ルフトヴァッフェ"…大ドイツ空軍少尉、エリク・シュナイダーの弟だもんっ!!

勝てるという根拠はなかった。
けれど困難を自覚してなお、楽観的になる生き方が、このハンブルク市民の少年には備わっていた。
おそらくここがヒトラー青少年団のキャンプだったならば、
「さすがは僕らがリーダー」
「ジークベルトは美しいだけでなく勇敢でもある」
とまた格が上がり、青少年の揺るぎなき英雄になっていたに違いなかった。

『おおっ、スヴァローグさまが復活されたぞ!』
『ウラァァーーッ』

ソ連兵らからも歓声が沸き起こる。
ジークベルトの勇気に呼応するかのように、T34戦車が砲塔をこちらに向けていた。

「ああ〜〜っ……うたないでえええっ!!」

T34戦車は発砲せずに突撃した。砲弾が効かないことをわかっていたのだ。
だが重量でファフニールの足を押さえたところ、隙ができた。

『スターリン命令第227号!【一歩も後退するな!】』

士官ががなっている。
頭上に猛烈な爆音が近づくのが聞こえた。

(ヤーボ(戦闘爆撃機)!?)

ポリカールポフ Po-2。
ドイツ空軍に『Night Witches』(夜の魔女)ってあだ名をつけられていることは、兄に聞いたことがある。

一連射を浴びせ急上昇すると、ファフニールは空を見上げた。
直後、炎の矢が獣の目に突き刺さり、激しくのたうっている。

拘束された地面から解放され、起き上がったジークベルトの白いスクール水着は泥で汚れている。
すぐ脇で少年が、マテリアライズでこしらえたクロスボウを構えて立っていた。

「きみほど射撃は得意じゃないけど、こいつなら簡単に狙える。無事で良かったよ」
「アンディこそ、酷い格好…」

抱き合う二人。

「こいつは魔界にしか生息していないはずの生き物だ。何らかの拍子に開きかけた魔界への扉が、近くにあるのかもしれない」
「いったん、離れよう!」

駆け出すより早く、竜の爪が覆いかぶさってくる。

「あぶないぞ、ジークベルト!」

アンディの背中を爪がえぐる

「ぐわああっ」
「アンディ!ぼくを庇おうとして!?」
「なに、かすり傷さ」

言うもののぐったりし、細長い腕の付け根に浮き出た肩甲骨のあたり、傷口からみるみる血が吹き出てくる。
赤軍兵士の中から、指揮官らしき男が歩み出た。
胸に星型のソ連邦英雄勲章をぶら下げ、身なりからして親衛軍の高級将校である。

「こっ、コイツは軍隊で敵う相手じゃねえっ、すっこんでろよ」

アンディの表情は苦しそうだ。
赤軍兵士に退避命令を出して人払いすると肩に当てた手のひらから、ぼんやりと青白い光が漏れる。

『女神ルサルカ。この異国の少年にも慈悲深き癒しを与えよ』

背中だけでなく、転んだとき顔や肘や足についた擦り傷もみるみる塞がっていく。
ついでではあるが、お尻の裂傷も治癒されていくのが分かる。

「これ…魔法!?」
「今は人間同士で戦い合ってる場合ではない。きみたちも協力するのだ」

将校は流暢なドイツ語で語りかけた。
口ひげを生やした端正な紳士で、威厳と敬意さえ浮かぶような理性的な眼差しがある。
額の傷跡を隠すように、赤い鉢巻のようなラインの入った、ベージュ色の帽子を被っている。

「おっさんも魔法使いなのか!?」
「私は魔法協会モスクワ支部所属のイグナートだ」


そのとき、クルトの声が聞こえた。

「すまん、少し手こずってて遅くなった!」

ブリーフ・パンツ一枚であちこち白く美しい肉体を晒しているが、精液は拭ってあった。
小脇には黒い革張り表紙の魔道書が抱えられ、表紙には『NARZISSE』の銀文字が光る。
いつもだったら互いの姿は見るに耐えない無残なものだが、今は無我夢中だったから、
不思議と恥ずかしさは感じなかった(少なくともその瞬間は)。

「さて、あのドラゴン。魔族のようだが、どう倒そうか?」
「並大抵の魔法じゃ致命傷を与えられないよ」

「四人の合体魔法でし止めよう」

イグナートが提案した。

「まって、おじさん。ぼくたち初めて会ったばかりだ。ジークベルトとさえあんなに苦労したんだ。成功させる自信がないよ」

とクルト。

「ふむ…どうすればいいと思う?」
「4人の微妙に違う魔法発動のタイミング差を埋めて、ピタリと合わせる道具があればなぁ」

クルトが考え込む。

「いいことを思いついた」

アンディが指差したのは、すぐそばに遺棄されたドイツ軍の88ミリ高射砲だった。
クロイツラフェッテ…十字型の4本足…ど真ん中の旋回台座に鎮座している佇まいは、戦場に舞い降りた貴婦人のようですらあった。
砲身には、何十もの白い輪…撃墜マークがペイントされている。

「このアハト・アハト(88)の中で魔法を発動させ、合成する。あとは目視照準による零距離射撃でアイツを狙うんだ。どうだ、おっさん?」

当時のドイツ少年は学校教育の水準低下のせいでクルトが嘆くほど学問には疎かったが、
「デア・アドラー」や「ディ・ヴェアマハト」など、国防軍の発行する雑誌を幼い頃から読み耽ったりして兵器の知識だけは豊かだった。
しかも軍人家の息子のアンディである。

「わが軍をさんざん苦しめた高射砲…か。確かにこいつは使えるかも知れん。魔力を凝縮するのにちょうどいい程度に内部が狭い」

苦笑いするイグナート。

「チャンスは一瞬だ。竜に狙いをつけ、引き金を引くのはジークベルト、きみに任せた。」

ポンと腕を叩く。

「えっ、ぼく!? ぼくでいいの!?」
「砲を撃つのは火属性のきみの役割だろ」
「えっと、そういう意味じゃなくって…」

「いや、遠くから見ていたがなかなかいいスジしてる」とイグナート。

「きみの射撃の腕前を信じるよ」

クルトも笑った。

「じゃ、やります」

意を決したジークベルトが椅子に座り、照準器を覗き込んだ。
同時に手を砲身に当て、魔法の発動を準備する。

アンディがハンドルをクルクルと回し、砲をほぼ水平にした。

「いい感じだよ、アンディ。もうあと1,2度上ぐらい」

同時にクルトが砲を横方向に旋回させるハンドルを回し、ドラゴンの暴れている方位へ向けた。

「伝説じゃ、ヤツは腹部が一番の弱点だ。」とクルト。
「タイミング頼んだぞ」

イグナートは閉鎖機あたりに掌を触れる。

「ありったけの魔力を込めろ。クルップ社謹製の砲身を信じるんだ」

アンディが地、イグナートが水、クルトが風の魔法を砲身に込め始める。
あとはジークベルトの火炎魔法により合体魔法が完成すれば、魔法砲の水平射撃だ。

(ぼくの魔力、あと少しだけもってくれ…)

クルトの膝がガクガク震えていた。
精を放ったのは若さでカバーできたが、グリモワールなしの魔道書封印は魔力的にも肉体的にもかなりの負担がかかり、体力が落ちている。
でも瞳は今朝よりも輝いていた…自分の存在意義を思い出すことができたから!

「じゃ、いきます!」
「オレたちはいつでもオッケーだ。合図してくれ」

魔法を発動させるために詠唱を始めると、ジークベルトの覗き込む照準器に黄、緑、青の3色の光が浮かび上がった。
そこへジークベルト自身の作り出した赤を加えた4つの点が、スコープの中心に映るドラゴンのまわりをランダムに飛んでいる。
圧縮されている魔力が強まるにつれ、耳鳴りのようなスィープ音がゆっくり上昇し、砲身を包むように4色の魔方陣が宙に描かれ、回転を始めた。
魔方陣はだんだん巨大化し、スコープ内で、4つの点が合わさる直前、ファフニールは上空を飛び回る「4機の魔女」を払い落とそうと、後ろ足で立ち上がった。
その瞬間、ジークベルトが叫んだ。

「いまだっ、フォイアーーー(発射)!!!」

同時に火炎魔法を発動させると、砲身を囲んでいた4枚の魔法陣が1つに合わさって、砲に吸い込まれた。

「いっけぇぇぇっ!! エレメント・カタストロフィ!!」

次の瞬間、雷の落ちたような轟音とともに、凄まじい光の束が砲の先端から放たれた。
反動はほとんどなかった。しかし光の束は翼を広げた巨大な鷲となり、竜めがけて向かっていく。

ドラゴンも負けじと紫色の毒を含んだ炎を吐いた。
力が拮抗している。

四本の光がじりじりと押し上げる。

「がんばれ! あと一息だ」

砲に魔力を注入し続ける。
竜の炎がだんだん弱まり、鷲の広がった翼がドラゴンを包み込むように延び、光がその巨体を締め上げる。
やがて鷲のくちばしがファフニールの胸元を抉り、ついに刺し貫いた。
断末魔の悲鳴がホルンのグリッサンドのように大地を揺るがし、真っ黒な霧となって飛散し、あたりに静寂が訪れた。


気がつくと魔法の副作用だろうか?
アハト・アハト(88)の砲身には赤、青、緑、黄の4色で彩られた幾何学紋様の輪が、特大の撃墜マークとして加わっていた。

「アンディ、ジークベルトも!!」

尻餅をついてへたりこんだアンディに、駆け寄って抱きついてきた。

「おい、どうしたんだよクルト。きみらしくもない」

抱きついたというより、よたり込んできた。
魔力切れである。

「少し、無理しすぎたようだ」

「クルト。いい笑顔だ」
「ジークベルトも、よく頑張ったな」

「ところでみんな、ひでえ格好だな」

アンディの一言で、2人とも我に返る。

「そ…そういえば」

あたりはドラゴンの熱が冷めてきて、気温が急激に下がっていた。
皆、お尻が小さいから足がスラッと長く見えるに違いないのだが、その細い腰を冷たい風が吹き抜けると、
戦闘で熱くなった身体もまた急激に冷やされ、おちんちんが縮んだ。

「ックシュン!」
「へぇっくしょい!う゛う゛〜」

3人は互いの体温を求め合うように、向かい合わせに身を寄せ合った。
精を放った後で、互いの吐息が生臭い。

『ストーーーーイ!(動くな)』

3人は銃を構えた赤軍兵に取り囲まれていた。



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