甘  露

−歳さん編−





宗次郎とよく団子屋に行く。
試衛館からちょっとだけ歩いた先にあるところだ。
近くもなく遠くもなく。散歩するにはもってこいの距離ぐらいかな?
小さい団子屋だが、店の横手が神社になってて、そこで食わせてくれてる。
しかも、買って帰る値段と同じでお茶も付くから、断然お得だ。
これが結構美味いんだぜ。
掃除や洗濯、食事の用意と、することはいっぱいあるが、数日に一度は暇をみつけて二人で食べに行く。


その出掛けるのに手頃な団子屋は、おれが昔に見っけた。
そう。行商をしながら、試衛館に出入りしていた頃だ。
周斎先生のおかみさんに、散々こき使われていた宗次郎を連れ出しては、食べさせてやってた。
子供らしく甘いものが好きな宗次郎だったが、試衛館では食べさせてもらえねぇからと、連れ出したのが最初だった。
気晴らしには最高だろう?


あいつがちっこい頃は、
「歳さん、歳さん」
と纏わり付いてくるのが、嬉しかったけ。
試衛館に立ち寄るたびに、一番におれを見つけては突進してくるところとか。
そんでもって、その頻度が少なくなったような感じとか、纏わり付き方が体当たりでじゃれ付く感じだったのが、控えめになったのが寂しかったよなぁ。
餓鬼じゃなくなったってことなんだろうけど……。
その頃からだよな。
弟のように可愛いだけの奴だったが、大きくなるにつれ、なんだかおれの宗次郎を見る目が変わってきて。


おれにとって宗次郎って、可愛い弟ができたみたいなもんだったが、いつの間にかそうじゃなくなってた。
何でだろうなぁ。
自分でもよくわかんねぇ。
けど、いつしか宗次郎から目が離せなくなってた。
ちょっとでも姿が目にはいらねぇと、探し回りたくなるし。
おれ以外の奴に、にこやかに笑いかけてるのを見ても、むかついてくる始末。
ほんと始末におえねぇ。


そんなもんだから、団子屋へ来初めの頃と、宗次郎を誘う趣旨がだんだんと違いだしてきちまった。
まぁ、おれ一人の問題なんだけど。
宗次郎もちょっぴり大人になったから、餓鬼の頃とおんなじとはいかなくなったけど、それでもいつまで経っても無邪気に懐いてくれる。
けど、それが悩みの種、なんだよなぁ。
それって、贅沢な悩みだろうか?
宗次郎のおれを見る目が変わって欲しいって思うのは。


そんな気持ちに気づいた頃は、その気持ちを持て余しちまったりしたが、今ではもう諦めちまった。
じたばたしたって、諦めきれる程度のもんじゃねぇからなぁ。
試衛館には人の出入りが多いから、なかなか二人っきりになれるなんてことはねぇ。
だから、ここは宗次郎と二人になれる貴重なところだ。
昔はおれから誘い出してばっかりだったが、今は宗次郎が誘ってくる。
そんな単純なことが、嬉しいおれだったりする。
だけど、美味そうに団子を食いながら、
「俺の甘いもの好きは、歳さんが作ったんですよ」
って、宗次郎は憎たらしい口を利く。
だけど、そんな風に思いながらも、結局おれは宗次郎にメロメロだ。
兄貴風吹かしてるけどよ。


それにしても、いつも思うんだけど宗次郎の奴、美味そうに団子を食べるよなぁ。
今もあっという間に一皿平らげちまった。
おれも、あいつを団子のように食ってみてえなぁ。
いや、逆に食われてみるのもいいなぁ。
宗次郎が餓鬼の頃なら思わなかった考えだが、今の宗次郎を見てるとそれもありかと思っちまう。
逞しく鍛えられた体、大きな包み込むような手。
言動は子供っぽいが、時折見せる大人っぽい目。
おれの背をもうじき追い越しそうな成長振りで。


宗次郎はもう一皿追加した団子も綺麗に平らげ、すっごく満足そうだ。
まだまだ成長期だし、これぐらいは当たり前かもな。
試衛館は貧乏所帯だし、原田と違って平気でお代わりができる性格でもねぇし。
ここへ連れ出した当初も、ひもじい思いの解消に、って意味合いもあったし。
おれの皿には、まだ団子が二串残ってる。
宗次郎の食いっぷりを見てたら、それだけでおれも満腹になっちまうんだよな。
だから、いつもどおり宗次郎に皿を渡してやったら、宗次郎はにっこりと満面の笑みってヤツを浮かべて、美味そうに食いだした。


団子を食う宗次郎の、ちろちろと覗く赤い舌とか、口の動きとか、じっと凝視していたら、なんだがもやもやと兆してきちまって。
どうにもいけねぇなぁ。
ああ、あの口で食われてみてぇ。
宗次郎はおれのこんな想いを、知ってるのかなぁ。
心の機微に敏感なヤツだから、知ってるかもしんねぇ。
そんで、知らん振りしてるだけかも。
あ、なんか落ち込んできた。


いやいや、落ち込むことはねぇ。
宗次郎だって、おれを好きなはず。
なぁ、宗次郎。
そろそろおめぇも大人だろ?
おれがもっといろんなことを教えてやるから、さぁ。
だから、おれの望みを叶えてくれよ。
な? いいだろ?






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