613様作■「もしもハルヒが○○の嫁だったら…」 // 光
<< 馨 // モリ先輩 >>
また一つ曲が終わって、ハルヒは涙ぐむ少女に別れを告げた。
卒業ダンスパーティーも終わりが近づいている。
まだ踊っていないお得意様がいないかハルヒが見回していると、
誰かがさっとハルヒの左手を握って、ホールの中心に走り出した。
「最後くらい、僕と踊ってよ」
「ちょっ、光!」
ハルヒをくるくる回すと悪戯っ子のように笑い、指にすばやくキスをした。
目ざとい女子数人が気絶する。
ホールが騒がしくなった隙に、ハルヒの耳もとでささやいた。
「ハルヒ、僕のところにおいで」
「今日これから?」
予想通りの答えにプッと吹き出す。
「あはは…。さすがハルヒだなあ」
目尻にたまった涙をぬぐうとニッと笑った。
「じゃなくて、僕のお嫁さんになってよ、ってこと」
【もしもハルヒが光の嫁だったら…】
「お早いお帰りですな。確か今夜のスケジュールは…」
「お坊ちゃま、どうなさったんですその格好!」
「急に大切な用事を思い出してね」
若き当主を出迎えた常陸院のベテラン執事とメイドは同時に絶句した。
たった一人で帰って来た彼は頭の先からつま先までずぶ濡れで、
少なくない時間を雨の中で過ごしたらしいと一目で分かったからだ。
「雨で道が混んでたから走って来た。…ハルヒは?」
「奥様でしたら…」
年配のメイドが双子のメイドを呼びつける。
「「さきほど急用があるとおっしゃってお部屋に戻られました」」
「わかった」
正装から水を滴らせたまま廊下を進む光を使用人達が追いかける。
「光様、今夜のスケジュールは…先方にはご連絡を?」
「お、お待ちください、そのままではお風邪を召します!」
夫婦の居住エリアの前で、光は振り返って笑顔を見せた。
「乾いた服をあとで運ばせてよ。あと風呂の用意もしといて。
先方には…そうだな、地方で足止め食ってると言っといて。
雷で自家用ジェットが飛ばないから、晴れたら行くとでも」
光が作ってくれた完全防音のオーディオルームにいると、
何の音もしない。窓がないから何も見えない。
それでも嫌な気配が空気に満ちて、たまらない気分になる。
一体何十分経ったのだろう。
頭を抱え、体を縮めながらハルヒは考える。
ここにいた時間がの分だけ、終わりは徐々に近づいている。
嫌なことは、我慢していればいつか必ず終わるのだから。
「ヒッ」
突然空気を裂く音が聞こえて、ハルヒは飛び上がった。
あわててドアを閉める音がする。
「ここか?」
「光…?」
しばらくして、ソファのカバーごと抱きしめられたのを感じる。
「わかりにくいんだよ、お前。なんてとこに隠れんだよ」
ハルヒはオーディオルームにあるソファーとそのカバーの隙間に挟まっていた。
「光…」
コツンと頭をくっつけられる。
「遅くなってごめんな」
「ううん…ありがと」
ぎゅっと強い力で抱きしめられた。
「くしゅっ」
「光はもう…」
春の嵐が通り過ぎ、静かになった自室でハルヒは頭を抱えていた。
「せめて着替えるとかさあ…」
「そんな余裕なかったんだよ」
「夏じゃないんだから…」
「うるさいなあ」
「とにかく脱いでよ」
光からびしょぬれの衣装をはぎ取り、体を乾いた布で拭く。
「わっ、ちょ、待」
光はサッと赤くなるとタオルを奪い、ドアに向かった。
「どこ行くの?」
「風呂に入ってくるよ」
「くしっ」
一面大理石の巨大浴槽に薔薇の花びらが山程浮かんでいる。
結婚して以来、毎日薔薇で一杯なのは、使用人達の厚意だろう。
ハルヒは最初の頃、「健康ランドみたい…」と遠い目をしていた。
「ハァ」
ハルヒを喜ばせたいのに、守りたいのに。
途中までうまく行っても、最後には失敗して怒られたり、
逆にフォローされてしまったりすることがほとんどだ。
「小さなサインを見逃さずに、か…」
小声でつぶやいて湯から上がる。
なら、自分が仕事を投げ出して2時間ずぶぬれのままでいたのは
ハルヒのことを思う気持ちの強さを表す大きなサインじゃないか。
「気持ちをわかってくれないのはハルヒの方じゃん」
洗い場に座ると、浴室のドアが開く音がした。
メイドが様子を見にきたのかと、光はぞんざいな声を上げた。
「あー、いま使ってるから…」
「光、背中流すよ」
振り向くと、大きな白いバスタオルを胸に巻いたハルヒが
大理石の浴室に足を踏み入れるところだった。
「ハルヒ…、ちょ、なにしに来たんだよ」
「いいからむこう向いて。昔はよくお父さんの背中流したんだ」
ハルヒは慣れた仕草でボディーソープを泡立てている。
光はちょっとふくれて言われるままに背中を向けた。
ハルヒは海綿を手に、丁寧に光の背中を洗った。
「光…」
「……」
「今日は駆けつけてくれて、うれしかった」
「……」
汲み置いた湯で泡を流す。
その背中に、ハルヒはそっと頬を寄せた。
「光には凄く感謝してる。ありがと」
光の顔にサッと血が上った。
「じゃあなんで怒ったんだよ!」
「……」
「だいたいさあ、ハルヒって本当に僕のこと好きなわけ?
いつもすぐ怒るし、全然わかってくれないし…」
ハルヒは光の背中に頭をくっつけたまま、目をつぶる。
「好きだよ」
「じゃ、じゃあ…」
「光が肺炎にでもなったらと思うとつい動揺して…」
「え…」
「光が心配してくれたのは凄く伝わった。うれしかった。
でも、光には、いつも元気で、そばにいてほしいから」
ハルヒは話し終えると光の背中からすっと離れた。
「ハルヒっ…」
光は思わず立ち上がり、ハルヒの手首をつかんだ。
「あ…、えーと…」
光は妻の顔をまじまじと見た。
「僕、いまハルヒのことすごく抱きたい」
ハルヒは顔を赤らめて目を伏せた。
「…いいよ」
光はハルヒを横抱きにした。
そのまま寝室に向かい、白いシーツの上に妻を横たえる。
「寒くない?」
「ちょっと」
光は枕元に手を伸ばして、設定温度を少し上げた。
「部屋が暖まるまで、僕があっためるよ」
ハルヒが胸に巻いていたバスタオルを取り去り、肩から手を回して抱く。
「光の体、温かいね」
「風呂上がりだからね」
何が可笑しいのか、少年少女のようにくすくす笑い合う。
ハルヒの細い腕が背中に回るのを光は感じた。
体を少し持ち上げて、数秒見つめ合い、キスをする。
キスをしながら光が手でまさぐると、ハルヒは十分に潤っていた。
光の動きに答えて、ハルヒの手も光の性器に手を伸ばし、導く。
それが滑らかにハルヒの中に飲み込まれたとき、
二人はようやくキスをやめて見つめ合った。
「光…大好き…」
「うん…」
交わった二人は、やはり少年少女のようにあっという間に達してしまった。
「く…」
まだ半勃ちのそれをハルヒから抜くと、コポッと光の精が溢れる。
光が呆然とそれを見ていると、ハルヒが起き上がって光の性器に口をつけた。
「んっ…、んむっ…」
いつもは嫌がるのに、と光は内心驚きながらも、唇と舌で懸命に奉仕する
妻の姿に、愛らしい顔に、うつくしい肢体に感動する。
ハルヒも僕も言葉足らずで、二人とも少し鈍いから、
時々こうやって言葉と体で確かめ合うのはいいことだな。
光はぼんやりとそんなことを考えながら、ハルヒの髪をなでた。
やがて部屋の気温は上がり、二人の熱も上がって汗だくになる。
光は仰向けに横たわり、奉仕するハルヒをうながして上に乗せた。
「あ…ああっ…」
ハルヒは腰を落としながら声を上げた。
こみあげる挿入の快感に耐えながら腰を使う。
光はハルヒの細い腰をつかんで下から突き上げた。
光は喘ぐハルヒが可愛くて、ハルヒは一生懸命な光が可愛くて、
お互いの姿を見ながらどちらも胸がいっぱいになる。
「う…」
「あっ…、んっ!」
二人は同時に達し、光は上半身を起こしてハルヒを抱いた。
最高に満たされたその瞬間、光は自分だけが幸福を手に入れたことを、
実感して、戦慄した。
汗を流した光が頭を拭きながら夫婦の寝室に入ると、
暗い部屋の中で、ハルヒが窓際に佇んでいた。
「ハルヒ、灯りもつけないでなにしてんだよ」
「あ…、えーと、月見てた」
光はスタスタと歩いて窓際に行くと、外を覗き込む。
雨で洗われた空に、丸く明るい月が昇っていた。
「へぇー、今日、満月だったんだ」
「うん」
ハルヒは隣に立つ夫の顔を見上げる。
猫のようなはしばみ色の瞳は、月よりもずっと遠くを見ていた。
きっと、旅立った半身のことを考えているのだろう。
自分にはわかる。なんとなくだけど。
「大丈夫、きっとうまくやってるよ」
光は「なんでわかったの?」とは聞かず、「うん」と答えた。
「そうだ、コート送ろうか。パリはまだ寒いだろうから」
「アハハ、コートなら売るほどあるさ」
「あ、そっか」
光は声を上げて笑った。
「さて、晴れちゃったから行くか」
「そっか、そう言っちゃったんだっけ?気をつけて」
頑張るよ。ハルヒだけ見てても、ハルヒは守れないってわかったから。
「ハルヒ」
「なに?」
光が横を見ると、ハルヒの大きな瞳が月光にきらめいた。
「愛してるよ」
ED
前回より一割増しの暴れ具合で「お父さんは認めません」な殿。
モリ先輩に肩車されてやっぱりブーケキャッチなハニー先輩。
教会の壁に寄りかかって微笑む馨、そのそばで話しかける鏡夜先輩。
ラストのカット
軽井沢の例の教会で、ハルヒのベールを持ち上げて赤面する光。
これが実は二人のファーストキスというオチ。
<< 馨 // モリ先輩 >>