613様作■「もしもハルヒが○○の嫁だったら…」 // モリ先輩


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 「これは…」


 モリ先輩から突然ポンと箱を手渡され、ハルヒは聞いた。


 「いったい、何のお祝いでしょう?」


 モリ先輩は答えず、ただ優しい目をして微笑んだ。
 白く光沢のある包装紙にかかった紅いシルクのリボンは、
 その小さな箱の中身が高級品であることをうかがわせる。


 「なんだかとっても高そうですけど…、いいのかなぁ?」


 無言でコックリと頷く。


 「じゃあ遠慮なくいただきます。えっと、開けてみても?」


 無口な先輩から何の脈絡もなく渡された、謎のプレゼント。
 流石のハルヒも確認しないことには落ち着かない。
 リボンをほどき、包装紙を開くと、艶やかな小箱が出てきた。


 「あ…」


 これはもしかして…。
 上品な桜色のベルベットに手をかけ、そっと蓋を持ち上げる。
 そこにあったのは光る石のついた上品なリングだった。


 「モリ先輩…っ」


 顔をあげると、急に後ろから大きな手で頭をポンポンされる。
 そのままハルヒの髪をくしゃっと乱すと、モリ先輩は
 すっと腰を落として包装紙から滑り落ちたカードを拾い上げた。
 手渡された白いカードには、流麗な筆記体で…


  Will you marry me?






 【もしもハルヒがモリ先輩の嫁だったら…】


 湖の上を渡る風が心地よい。
 空はどこまでも青く、遠く霞むアルプスが白い。


 「とてもきれいな所ですね。思い切って休暇を取って良かった。
  モリ先輩、連れてきてくださってありがとうございます」


 ボートを漕ぐ夫に声をかけると、彼はかすかに微笑んだ。
 そのまなざしに頬を染めて、ハルヒは湖水に手を浸す。




 「…風が出てきた」


 「ええ。そろそろ帰りましょう」


 船着き場にボートを寄せ、先に崇が飛び移る。
 そのまま、完璧な身のこなしでハルヒの手を取った。


 「ありがとうございます」


 (やっぱり良家の子息だなあ)
 普段の無愛想な態度に忘れがちだが、時折見せる洗練されたしぐさは
 崇が日本有数の良家で育ったことをハルヒに思い出させる。


 大きな手に支えられて船着き場に飛び移ろうとしたとき、
 突風に煽られてハルヒがバランスを崩した。


 「あ」


 「ハルヒ」


 次の瞬間、ハルヒは崇に高く持ち上げられていた。
 微動だにしない腕の力と、優しい眼差しに顔が熱くなる。
 崇はハルヒを引き寄せると、額にキスをした。


 「大丈夫か?ハルヒは軽いから気をつけないとな」


 「あ、すみません、先輩」


 にっこり微笑み、片手で軽々とハルヒを抱える。


 「ハルヒがあやまることじゃない。
  俺が気をつけないと、という意味だ。それに…」


 赤くなってうつむくハルヒを覗き込むように言った。


 「俺はもう先輩じゃないぞ、奥さん?」


 「は…、た、たかしさん」


 付き合うようになってからも結婚してからも、
 二人でいる時は、ハルヒは夫を部内での呼称で呼んでいた。
 モリ先輩、もしくは先輩。それを気にする様子もなかったのだが…


 「ははは、いい子だ」


 崇は朗らかに笑いながら、別荘に向けて湖畔を歩き始めた。
 通行人の中から「キッドナップ」というささやきが聞こえる。
 それほどにハルヒの顔が動揺していたのだろう。


 「皆がハルヒをみている。かわいいからだな」


 「は、ハァ」


 崇とハルヒは慣れた様子の使用人によって、寝室に案内された。
 メイド達は抱えられっぱなしのハルヒに同情して苦笑する。
 ハルヒも困ったように笑ったが、内心安心していた。


 結婚してから崇がこんな風になるのは初めてだが、要は、
 ハニー先輩がしていたように昼寝をさせてしまえばいいわけだ。
 ただ眠いだけの話なんだから…


 だから、まさかいきなり押し倒されるとは思ってもみなかった。


 「せ、せんぱ…」


 天蓋付きの広い寝台の真ん中で、ハルヒは崇を見上げている。
 ハルヒに覆い被さるように両手両肘をついた崇が爽やかに微笑んだ。


 「先輩じゃないと言ったろ、ハルヒ」


 「は、はい、たか」


 唇を塞がれて二の句が継げなくなる。
 そして、濃厚なキスに絶句する。
 結婚前も、結婚してからも、こんなキスは初めてだった。


 「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」


 ようやく離れた二人の唇の間に、唾液が糸を引く。
 すっかり息が上がったハルヒの耳元で、崇が囁いた。


 「しょうがない奥さんには、お仕置きをしないといけないな」




 「やっ、あっ、…あぁ、んっ…」


 厚いカーテンの隙間からわずかに夕日が差し込む寝室で、
 ハルヒは全身に赤い跡をつけ、肩で息をしていた。
 崇は一向に寝る気配もなく、愛撫を続けている。


 「や、ああっ、あっ、もう…」


 内股を這う舌に身をよじる。


 「きれいだよ、ハルヒ」


 強い力で脚を開いて、崇が感嘆の声を漏らす。
 何の躊躇もなくちゅっと吸われて、ハルヒは赤面した。


 「や、やめてください…」




 「どうして?こんなに濡れているのに。
  いま可愛がってあげるよ、可愛い仔猫ちゃん」


 「あぁぁ…」


 ハルヒは耳まで赤くなって身もだえた。
 普段ほとんど話さない夫のクサイ台詞が、いちいち恥ずかしい。
 一方で、彼の愛撫に喜んでいる自分の姿がなんだか情けない。


 「あっ、あっ、…っ!」


 巧みに陰核を刺激され、ハルヒは涙を流して達してしまった。
 やっと目を開けると、隣に崇が横たわっている。
 満ち足りたような顔で微笑んで、ハルヒの髪を指で梳いた。


 「ハルヒは本当にかわいいな…」


 (あ、寝ちゃうのかな?)
 こうなると、今度は物足りないような気もする。
 などとしんみりした途端、崇がハルヒに膝立ちするよう促した。


 「ハルヒ、上に」


 「え…?」


 崇が指さす先に、普段の1.2割り増しの陰茎があった。


 「え?」


 「え?じゃない。ハルヒ、おいで」


 何故眠いとサイズまで変わるのか?
 夫の不条理に混乱しながらも、促されて崇の腰に跨ってしまう。


 「え、ちょ、待っ…、きゃ、あうっ!」


 自身の体重と、崇の腕の力で押し込まれていく。
 騎乗位は、長身の崇と小柄なハルヒにとって一番楽な
 体位ではあるのだが、今日に限っては、奥が圧迫されて苦しい。


 「ハルヒのなかは温かいな」


 「あ…、あ、んっ、んっ、んぁっ!」




 崇が腰を使い始めると、軽いハルヒは簡単に突き上げられてしまう。
 ともすればバランスを崩しがちなハルヒの腰を、崇が掴んだ。


 「あっ、あんっ、ああっ、んっ!」


 「ハルヒ」


 「あっ、はっ、はいっ」


 「もう二度と、俺を先輩と呼んではいけないよ」


 「あっ、すっ、すみませ…」


 崇が爽やかな笑顔でしゃべると調子が狂う。


 「あやまらなくていい。ただ…」


 「あうっ、あっ、た、ただ?」


 崇が動きを止めた。
 起きあがってハルヒを抱きしめる。


 「…先輩だと、他の奴らと区別がつかないだろ」


 ハルヒは少し微笑んだ。これって、やきもち?
 普段は何も言わないのに、こんなこと考えていたのかな。
 なんだか子供みたいで、かわいい。


 「わかりました。崇さん」


 崇の背中に手を回して、ぎゅっと力を入れる。


 「崇さん」


 「ハルヒ…」


 「はい」


 崇はハルヒの肩を掴んで、顔を覗き込んだ。
 少し甘えるように微笑む。


 「愛してるよ」


 ハルヒが赤くなってうなずくと、そのほほを両手で挟んだ。
 そして、深いキスを交わしながらゆっくりと動き出した。


 「ハルヒ…っ」


 崇が眉根を寄せる。


 「あっ、ああっ」


 目の前が白くなった瞬間、奥に熱いものが貼り付くのを感じた。
 覆い被さっている崇の拍動に合わせるように、満たされていく。
 やがて、崇はハルヒの胸の辺りに倒れ込んだ。


 「…崇さん?」


 崇は熟睡していた。
 ハルヒは少し笑って、子供でも抱くように崇の頭を抱く。
 そして髪に顔を埋め、愛おしそうにキスをした。




 カーテンの隙間から漏れる光が黄昏の色に変わった頃、崇は目覚めた。
 ほほにあたる乳白色の肌。妻の腕枕。乱れたベッド。
 狼狽する崇を見て、ハルヒはいかにも楽しそうに笑うのだった。




 ED


 バージンロードでハルヒを送り出し、眩しそうに見つめる殿。


 穏やかに微笑むハニー先輩とうさちゃん。の後ろで見守る鏡夜先輩。


 仕方ないなぁ、という笑顔で見送る義兄な双子。


 ラストカット
 教会の前。
 ここぞとばかりに古靴や米を投げる悪魔のような双子と殿。
 あきれる鏡夜先輩。 はしゃぐハニー先輩。
 涼しい顔ですべて避け、まるで人さらいのようにハルヒを担いで逃げるモリ先輩。




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