227様作■「姫君の憂鬱と王様の杞憂」環ハル // 2
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「何でか知らないけど、アンタ環くんとケンカしてんだって?」
土曜日になって、遊びに来たメイが開口一番にそう言った。
どうやら、部員の誰かとのメールのやりとりで知ったらしい。
「そうだけど……、正確には環先輩に対して自分が怒ってるっていうのが正しいかも」
「ふぅん…。だったら、あたしに詳しく話してみなよ。相談に乗るからさ」
最初は友達とはいえ、個人的な問題を話していいものかとも思ったが、
女同士の気安さと意外に聞き上手なメイに乗せられたハルヒは、気が付けば全てを彼女に話していた。
話を聞いたメイは、半ば呆れ顔で言った。
「前から思ってたけど、何つーかアンタ達って本当にバカじゃん!」
「ちょっと、バカって…そこまで言わなくても……」
「つーかアンタの話だと、むしろそこまで条件揃ってんのに気付いてないってことが、
あたしには信じられないんだけど」
メイは腕を組んで考える仕草をした後、ハルヒの瞳を見据えた。
そして、何かを確信したように小さく頷き、再び口を開く。
「普通はこんなこと、当人同士で自覚しあうべきだと思うけどさ。
アンタ達みたいな超鈍感コンビに任せてたら何年かかっても無理っぽいから、
ハッキリ言わせて貰うんだけど!」
「自覚って、何を?」
「あー、もう!何で分かんないわけ?アンタ、環くんのことスゲー好きなんじゃん!!
だから、お父さんだから平気とか言われんのがムカつくし、
他のヤツにされても何ともないことが環くんが相手だと気になるんだってば!
それに胸の奥が疼くって、恋してドキドキしてるってことじゃん!」
メイに一気に捲したてられ、ハルヒは固まった。
―――環先輩のことが、好き?…自分が?恋……?!
ハルヒの脳裏に、環と出会ってから現在までの様々な出来事が
次々とフラッシュバックしては、頭の中を駈け巡る。
メイに言われた言葉の一つ一つが、
心の奥の自分でも今まで存在に気付かなかった扉をノックし、自覚を促す。
身体中で目覚めた新たな細胞の全てが徐々に活性化し、
心の中の未だ無色な部分が薔薇色に染まっていくような感覚……。
どうして、今まで分からなかったのだろう。
こんなにも自分は、環に恋をしているというのに―――。
…そう、自分は環が好きだ。
好きだから、彼だけを異性として過剰に意識してしまう。
好きだから、彼の過剰な父親気取りに苛立って反発してしまう。
…何だ、複雑な思いの全ては、自覚してしまえばこんなに単純明快な事だったのだ。
メイが帰った後、ハルヒは一人で考えていた。
あの後、自覚出来ただけで今は満足だと伝えたところ、彼女は憤慨して、
「本当にそれで良いと思ってんの?好きなら、相手が自分をどう思ってんのか、気にならないわけ?」
と言った。
更に彼女が言うには、環もまた宇宙レベルの鈍感だから、
自分からはっきり気持ちを伝えないとダメだ、ということ。
とはいえ、頬を染めて環に告白する自分の姿を想像すると、あまりに自分らしくないと思った。
自分は彼が好きで、それが分かっただけでも充分ではないか。
自分から多くを望むことはしない、相手が自分をどう思っているかなんて知らなくても不自由はない、
それで苦しくなっても何とか出来るはず……。
…だけど、ハルヒの中に芽生えた「恋」という気持ちが、囁いてくる。
―――望まないのが、自分らしさ?…そんな殻など、壊してしまえばいい。
自分の心に革命を起こすのだ、そうすれば何かが変わる…変えてみせる!
…そう、自分から行動することが自分にはもう出来るはずなんだから……。
その夜、ハルヒは奇妙な夢を見た。
環の部屋らしき所で彼と過ごしていて、不意にどちらからともなく唇を重ねた。
その後、当たり前のように彼は強く自分を求めてくる。
ハルヒは抵抗することなく素直にそれに応え、二人は激しく睦み合った。
環の指が、唇が与えてくる官能に流され、ハルヒははしたなく喘ぐ。
やがて彼が労りをもって自分の中に侵入してきたとき、更なる快感とともに、
それをとても嬉しく思っていた―――。
「…ん…、夢……?」
目覚めてふと枕元の時計を見てみれば、未だ日付さえ変わっていなかった。
まだ父親が帰宅する時刻ではないので、一人きりのアパートの部屋はシンと静まりかえっていて、
時折外から車の走る音が聞こえるほかは、何とも静かだ。
いつもならば、こんなふうに途中で目覚めてしまったときは、
直ぐにもう一度寝直すところだが、生憎と今夜はそれも叶いそうにない。
恋心の自覚と関係あるかどうかは謎だが、あんな夢を見たのは初めてだ。
更に、夢とはいえ環に求められて素直に応え、それを嬉しいと感じていた。
所詮は夢の中の出来事だと割り切ってしまえばいいのかもしれないが、
どうしても意識せずにはいられない。
もしも環も自分を想ってくれているとしたら、
現実の彼も夢と同じようなことをしたいと考えることがあるのだろうか?
普段の様子を見る限り、とても想像出来ないのだが……。
…もしも彼と交際することになって、夢の中のように求められたら、
その時自分はどう反応するのだろう?
無理矢理奪われるのではなく、自分を気遣って優しくしてくれるのなら…
あまり嫌じゃないなと思い、そう思った自分に驚く。
なにしろ、今日恋心に気付いたばかりだというのに……。
そこでハルヒは、唐突に身体の些細な異変に気付いた。
ショーツの股間の辺りが、ヒヤリと冷たい。
一瞬、生理が来たのかと思ったが、それはまだまだ先のはずだ。
一応確かめてみようと、ショーツの中に指を突っ込んでみると、
中はヌルリとした蜜で潤っていた。
「…やだ、あんな夢見たからかな……?」
この手の事にあまり詳しくないハルヒでも、
一応片手で数える程には自慰の真似事をしてみた事がある。
でもそれは、ぎこちなく胸や性器を触る程度の拙いもので、
絶頂に達する程の快感を得たことは、まだ一度もなかった。
なかなか寝付けないこともあり、気晴らしを兼ねて、
ハルヒはショーツの中の指を動かし始めてみた。
拙い動きで花弁の周りをなぞっているうちに、先程の夢の内容を思い出す。
あの夢の中の環は、もっと的確に快感を引きずり出してくれたはずだ。
そこで、ハルヒは夢でされていたように、
蜜を塗りつけた二本の指で肉芽を挟んで、小刻みに刺激してみた。
途端に、それを快感と認識した身体が痺れたようにはねる。
「…あぁっ…何これ…、気持ちいい…かもっ…」
そのまま少しずつ強弱をつけて弄っていると、
そこを中心にじわりと甘く痺れるような疼きが広がっていく。
新たに溢れてきた蜜を掬い取っては肉芽に擦りつける行為を続けるうちに、
快感を覚え始めた身体が更なる刺激を求め、徐々に頭の中が淫靡な妄想に支配されていった。
「んっ…そこ、いいっ…環先ぱ…ぁあっ…!」
いつしか頭の中で、自分の指が環のそれに変わっていき、
彼の名を呼びながら忙しなく指を動かし続ける。
僅かに体温が上昇して喉が渇きを覚えるが、それでも一人きりの淫らな行為をやめられない。
「…あぁん…そう、そのまま中に……っ!」
どこよりも濡れそぼる凹みを探り当て、緩やかに中指を埋没させていく。
中に指を挿入したのは初めてだったが、トロトロの蜜で熱くぬかるんだ秘裂は、
狭いながらもたいした抵抗もなく自身の指を受け入れていった。
秘裂の中で指をスライドさせていると、単に気持ちいいという他にも、
複雑な感情が生まれるのを感じる。
胸がキュンと締め付けられる、どうしようもない切なさと。
環をオカズにして淫らな行為をしているという、少しの罪悪感と。
自覚したばかりだというのに、こんなにも彼を愛しく想っている自分への戸惑いと……。
自分を翻弄しているこの指が環のものだったら…、
夢の中のように優しく抱いてくれたら、どんなにいいだろう。
そう思うほどに、自然と指の動きが激しくなる。
「んぁ…はぁんっ、先輩ぃぃぃっ!」
行為を続けるほどに高まっていき、やがて一際強い快感に身体がビクンと震えた。
それが頂点だったのか、動きを止めて身を任せているうちに、徐々に波が引いていく。
ハルヒはゆるりと指を抜き、大きく息をついた。
頭がはっきりしていくに順って、最中も感じていた複雑な感情が騒ぎ出す。
……胸が痛い。
こんなにも環を好きになっていたのに、
どうしてメイに指摘されるまで気付かなかったんだろうか。
ずっと前から異性として意識していたというのに、
彼への好意を今まで単なる尊敬の念だとしか思っていなかった。
彼はずっと、自分を気にかけてくれていた。
自分が冷たい態度をとっても、落ち込んで立ち直った後は直ぐに、
お日様のような笑顔を向けてくれていた。
それを好ましく思っている自分にもっと早く気付いていたら、
今までもっと優しく接することも出来たはずなのに……。
……だが、もしも環が勘違いなどではなく本当に「お父さん」としか思ってないとしたら、
この想いは空回りするだけなのだろうか。
そして、いつしか儚く消えてしまうのか。
そう思うと、胸が締め付けられるような不安に苛まれ、涙が溢れ出す。
……いや、ここで弱気になってはダメだ。
環への恋心を自覚したとき、自分の殻を壊してみようと決めたはず。
自分から多くを求めない、自分の望みを語らずに堪える藤岡ハルヒを、少しでも変えていかなくては……。
これからは、自分の気持ちに素直になって、
幸せになるために少しずつ新しい一歩を踏み出していこう。
ひょっとしたら、環だって無自覚なだけかもしれないのだ。
仮にそうだとすれば、目覚めさせるきっかけが必要なのだろう。
そういえば、メイが言っていた。
―――環もまた宇宙レベルの鈍感だから、はっきり言わないと伝わらない、と。
考え倦ねた末に、ハルヒは決意した。
「……決めた。環先輩に、好きだって言おう」
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