ふー、と。
酒の残る息に紫煙を交えて吐き出した。
大皿料理をこれでもかと運んでくるレディ達の笑い声が聞こえてくる。
いい夜だ。
綺麗なレディたちとナンパを通じてお話しまくった、実に実にいい夜だ。
おれたちの船の女神が笑える、本当にいい夜だ。

こんな夜には、優しく涼しい風に懐かしい肌の記憶を呼び起こされる。
そして思うのだ。

「・・・ヤりてー・・・」

ああレディ、情緒もクソもないとか言わないで。
何せおれは初恋に敗れてからと言うもの、数多の男にひっかかっては突っ込まれしたカラダの持ち主。
 ―こっちが引っかけたこともないわけじゃない(が、これも男限定。ちなみに専ら突っ込まれるほうだ)―
しかも19歳、ただいまヤリたいまっ盛り。
心身ともに心地よい今、この充実を気が置けないヤツと分かち合いたいと思うのも道理なわけだ。

そうそう、実はおれは、レディとの経験は殆どない。
この心を捧げるピュアラブは違うぜ?それならおれは世界中の女神に恋してる。
けど。
初めて「これが恋か!」ってな波が来たときに、思い知ったんだ。
ああ、おれはレディは大切にしたい、傷つけたくない・・・ヤリまくりたくはないのだと。

そして哀しいことに、ヤロウに愛してもらいたいのだと。

ホモっつったって、みんながマッチョ好きってなわけじゃなく、白い肌や金髪、細い腰はなかなか受けがいい。
しかも実は結構筋肉もつけてるから、おれははっきり言ってかなりモテる。
そう気付いてからは、なんと言うかまあ、割と手当たり次第に色々やってた。
別に嫌味じゃない。
現にモテたところで、ヤリまくれたところで、満たされた試しなんかないんだから。

このいい夜。
おれがしたかったのは、これまで数多経た、ケツにただ突っ込むこと、プラス。
あったかくてなんか幸せな感じを分かち合うような。そういうのをしたいなあと。
・・・したことなんかねェけど。したいなあと思ったんだ。

―いや、今夜ばかりじゃない。
誰かの幸せに震えるときは、いつもそう思ってたんだ。





あいつのガラガラ声が聞こえてきたのは、そんな夜更けのことだった。

「キャプテンウソップが魚人の幹部に与えた改心の一撃を歌う!心して聴け!」


まだネタつきねェのかよ、と呆れながら、広場がどっと沸くのをおれはぼんやり眺めていた。
頭の端からこれからのこと・・・次何飲もうか、それとも誰か見繕うか、てなことがもう既に歩み寄ってきていた。

しかしその時。
おれの脳髄が揺れた。


「あの歌・・・!」


緩やかに流れていた夜が、突然衝撃波に取って代わった。



YouはShock、と誇らしげに替え歌を披露するウソップに、おれは釘付けになった。
ああ、わかる、続きが歌えてしまう。
こんなにも生々しく、あの情熱がよみがえってくる!

イーストブルーの少年達に漢の生き様を教えた物語。
おれも例に漏れず、ちっせェ頃からそれに夢中だった。
数々の技の名前やら、触発されて作られた歌なんかを覚えて、でもいっしょに遊べるともだちがいなくて
悔しい思いをしたことも、次々に思い出せる。
それほどにおれは、その物語に、その男気溢れる世界に入れ揚げていた。

ウソップも歌ううちに、おれの視線に気づいたらしい。
ものすごく活き活きと歌い始めた。目は爛々と輝いている。
高音部分も何のそのだ。
正直おれは、そのすがすがしく鮮やかな歌いっぷりに、ちょっとポーっとなってしまった。



歌い終えたウソップは、ぴょんとおれのところまで走ってきて

「お前・・・経絡秘孔(けいらくひこう)を知ってるのか?」
「708つあることもな。」


そして一呼吸置いて、二人で呟いたのだ。



「「199x年・・・地球は核の炎に包まれた・・・」」




それからおれはウソップと、色んな懐かしくも熱い(でも多分あまり役には立ちそうもない)話をした。

幾夜も幾夜も祭りは続く。
その間、おれたちは二人酔っ払いながらゲラゲラ笑っていた。

最後の夜もそう。
互いの情熱を湛えあいながら、これでもかとアホ話は続いた。


あれは、月が傾き始めた頃か。
酔いも手伝い、絶好調におれたちはかっ飛ばしていた。


ネクタイ頭に巻いておれが
「南斗烈脚斬陣!」
「ひでぶー」

そしたらウソップが自前のオーバーオールを脱ぎ捨てて
「ほぁあああああ(必死の低音)」
「出てる、気が出てるぞお前!」


「「あひゃひゃひゃ」」


月が傾いた頃。
そんなノリでひーひー笑い転げていた。
そんでついでに、その格好でゲラゲラ笑ったまま地べたに転がった。
(周りに人がいたかどうかは、ちょっと憶えちゃいない)


・・・・・
ようやく訪れた沈黙にもその名残は残っている。

「?」
すこし目を向けると、ちょこんとウソップがおれのそばに正座するのが見えた。


「なあ、サンジ」
「ん?」

そしてボクサーパンツ一枚のあいつは、ネクタイを頭に巻いたおれに言ったんだ。







「おれ、サンジのこと本当に好きなんだ」





1.徒花3.