ひく、と口の端が動いた。
「・・・は?」
きゅ、とウソップはおれ手を握る。
「・・・この手を、離したくないくらい、好き」

頬を真っ赤に染めながら、目の前の貧弱なカラダしたパンツ一丁は、潤んだ瞳でおれを見つめている。
おれの頭で揺れるネクタイの、はたはたと言う音がやけに響いた。

「・・・えーと・・・」

正直、感想はただひとつ。



"アホかコイツ"



しかしこの、純粋なまんまる目を傷つけずにその心を伝える術はおれは持ってない。
何より・・・あまりの衝撃に、何も考えられないってのが正しいところ。

きゅ、とすこし強く、手を握り締められた。
「一生大事にする...ダメ?」
「あー、いや、その」
「あ、今更だけど・・・男に告られたの、気持ち悪いか?」

ほんと今更だなオイ。
ってまあ、それは大丈夫だからいいんだけどよ。

「おれ実はウケでないと満足できねェし、そこは問題ねェよ」
「あ、よかった」
「ただクソヤロウ共に"ヤらせろ"って言われ続けて来てるんでな、一生とか言われてもそう簡単には信用とか」
「・・・何人くらいに言われたんだよ、そういうこと」
「えー、40人」

すると、ウソップがぎゅっと、握る手に力をこめた。


「じゃあおれは、41番目にして初めての、ヤりたがらない男になる!サンジにはエロい意味じゃ指一本触れない」

「もう手ェ握ってんじゃねェか」
「これは別!」
ふるふると長い睫(初めてまともに見た)を揺らして、熱い瞳は語りかける。
「おれはもう覚悟決めたんだからな!グランドラインでだってレッドラインでだって大声で叫んでやる!」

ダメだ、完全にイっている。
しかもおれのことはちゃんと見てるから性質が悪い。


「付き合って」
「もうちっと待てよ」
「嫌だ」
「んなこといっても、心の準備が」
「だって好きなんだ」
「何となくためしに、とかできねェし」
「いいよおれ、それでも」
「おれが嫌なんだ!」



そんな問答を大体20回ほど延々繰り返し。
気付けば、朝日が昇っていた。






「あー・・・もう無理。何も考えらんねェ」
「じゃあ、付き合ってくれるのか?サンジ」
いや、何をどうしたらそういう結論になるんだ・・・
しかしおれはもう限界、ついポツリと呟いちまった。

「わかったよ・・・検討するよ」


目が半分開いてない状態で言うと、ぱっと犬みたいにウソップは顔を輝かせた。

「前向きに?」
「・・・ああ。」
「限りなく前向きに?」
「ああ、限りなく前向きに検討します。」



あーあ、言っちまった。
眠すぎてしんどかったから、ってのも勿論あるだろう。
そして、今までおれを恋の道(というか性の道)に引きずり込む、困った習性が現れたんだろう。
プライドもリスクも見栄も全部捨てて訴えてくるその姿勢に、この子犬みたいな目に、
結局ちょっと情が湧いたのだ。

そんでもってちょっと、時めいたりしたのだ。きっと。


「・・・なぁサンジ」
「あ?不満か」
「ううん・・・おれってさあ」
「ん?」
「強引?」
「当たり前だ!」



そこから出航までの3時間。
おれたちは、狂ったように。


眠った。



昨日宴会前に荷造りしておいて本当によかったと思う。





2.徒花4.