「恋いいなー!あたしも恋したい」
「おれはいつだってナミさんに恋してるよ」
「(無視)こんな時代でしょ、くだらない夢はあってもバカかスケベばっかりでときめきようもないったら
 ・・・つーかなんであたしサンジ君の恋愛相談に乗ってんのよう!」
「あ、ナミさん落ち着いて・・・」
彼女の語調に合わせてグラスが揺れる。
テーブルをどつく女神をなだめるため、おれはまた樽をひとつ空ける羽目になった。


グランドラインを漂う、ある夜。
すっかり仲間も増えた頃だ。

おれはあの困ったピュア小僧を扱いかねて、まあ一番こういうのに関して頼りになりそうなナミさんに 相談に乗ってもらっていた。
乗ってもらってた、というよりは、彼女はウソップの"サンジだいすきー"といわんばかりの笑顔と
一緒にいるものの微妙に戸惑うおれを見て大いに興味をそそられ
状況を教えろやとやってこられただけなんだが。
何しろおれは混乱の只中、きっかけが何にしろ女神が相談に乗ってくれるのはありがたいことに変わりはない。
だから伝えた。
ウソップが告白してきたことと、前向きに検討するから待てと答えたこと。

「でも、あたしたちと旅に出るまでは、サンジ君てかなりヤリ込んでたんでしょ」
「ヤリ込む・・・」

ナミさんの口からそんな単語が出ると普通にショックだな、と思いつつ。
そう、軽蔑されるのを覚悟の上で、おれは彼女にも自分の性癖(悪癖?)について言ったのだ。

「まあ、1週間以上空くことはなかったかな・・・」
「私たちの村出てからもう1ヶ月以上経つけど・・・本当に平気なの?」
「・・・結構、平気かも」

久し振りに右手とイチャイチャしております、ってことは黙っておいた。
(おれに取っちゃセックスってのは、突っ込まれるのが本筋だしな)

ナミさんの分析眼はかなり鋭い。
特に上陸した島なんかにいる人間を見る目は相当なもんだ。
とても18歳のレディだなんて思えない。
それはきっと彼女が、一人で行きぬくためにあらゆる誘惑を振り切ってきたからだ。
必死で他人を観察し、そして距離を作ったから。
だから彼女は、人の考え方や癖ってもんをよく知っている。
そして彼女は、いかに男ってもんが信用ならないかを、よーくよーく知っている。
おれと同じくらい。

「これまでの恋愛では、そういうのあった?」
「いや全然」
「"ヤリてェ!"ってのが入口だったわけね」
「・・・・・・・・・ハイ」(今更すこし罪悪感)

「ふーん・・・そこの原因を探る必要がありそうね。
 ちなみにこれまではどんな相手が多かったの?」
「えーと・・・年上、マッチョ、性格は番長」
「・・・真逆ね・・・」

そして話は進む。
「ウソップとならできそう?」
「イメージがつきません。嫌ってわけじゃなく」
「**はできそう?」
「顔見なければ、多分。(見たら笑っちまいそうだ)」
「***は?」
「無理!」
ちょっとレディにお聞かせするには向かない内容をふんだんに盛り込み、話は進む。

グラスに並々と注いであったワインをぐびぐびぐびっと飲み干して、ナミさんはおれに告げた。

「ウソップ呼んで来て。話したほうが手っ取り早いわ」
にっこり、微笑んでいた。

「え、そんな本人の前で」
「連れてらっしゃい」(女王)
「・・・ハイ・・・」


当然抗うことなど出来るはずもなく、大人しくおれは男部屋でくつろぐナガッパナを呼びに行き。
オラ来い、の一言だけで、またこのアホはウキウキとうれしそうに着いてきた。



「ウソップ、最近楽しそうね」
「おう」
「サンジ君が好き?」(直球)
「うん」(即答)

頭がイテェ・・・
心持ちホホが赤いのが、尚更おれをどうしようもない気持ちにさせる。


「でもウソップ、なんでサンジ君だったの?アホ話出来るから?」
「いやそれは別。」

え??

「そーなの?じゃあ何で?美人だから?」
「違うっつったらウソだけど・・・おれホモじゃねェからなあ。初恋女の人だった。」

そーなの???

「じゃあ何でよ、あたしみたいにかわいい女の子がいるのに!ふるさとのあの清楚系お嬢様とか。」
「んー何というか・・・男で、サンジだから、わかってくれるような気がしたんだ。」

赤い酒の注がれたグラスを見つめ、あくまで冷静にウソップは続けた。

「役に立ちそうもないガラクタとか、愉快な武器とかいっぱい作ってるだろ。
それで"そんなことするくらいなら筋トレでもすれば?"って言ってくるのが、多分普通なんだ。
でもな。筋トレなんかを否定するわけじゃねぇんだけど。
おれはおれのやり方で強くなりたいんだよ。
で、それをわかってくれそうって言ったらやっぱり、サンジかなと。何となくだけどな。」

「一番自分が大事にしたいところを、わかってくれるってこと?」
「うん、そう。で、認めてもらえる為にももっとがんばりたいし、そう思わせてくれるサンジを大事にしたいって、思えたっつーか」

へらぁ、っとウソップは笑って見せた。
ふんふん、とナミさんはとても興味深そうに耳を傾けている。

おれはといえば。


・・・目から鱗が落ちた。


おれならわかってくれそう、だって。
てっきり、(自分で言うのもアレだが)美形でアホ話ができるヤツに初めて会ってメロンメロンなんだとばかり。
んで、必死に覚えた愛の言葉を手当たり次第にぶつけてきたのだとばかり。

トクトク、ナミさんのグラスに新たな一杯が注がれる。
「男って所詮、やりたいだけなんだと思ってた。だから一旦やっちゃえば後はほったらかしで浮気するもんだと」
「おれも」
「・・・二人とも、もっとマシな出会いはなかったのかよ・・・」
「うるさいわね。でも・・・ウソップは本当にサンジ君が好きだから、サンジ君の気持ちが固まるまでは手を出さないって決めてるんでしょ?」
「うん。だから毎日、胃薬は欠かせない」


・・・は?




「そりゃあ、してェよ。もう頭おかしくなりそうなくらいしてェよ。でも、サンジがおれを受け入れてくれるって確証ないとできねェし、待ってって言われてるしさ。もう胃が痛くて痛くて」

だからチョッパーが仲間になってよかったなぁ、とウソップは笑った。



がぼーん、とナミさんの後ろに文字が見えた。
多分おれの背にも見えてるだろう。


何てこった。




こいつ。本気だ。
そして裏がない。






3.徒花5.