「うおーっ、メシだメシー!!」
「待ちなさいってば!」
「なあなあ、ケーキもあるのか?」
「ええ、ノエルよ。」
「「楽しみだなー!」」

会場は学校から15分くらいの、洋食屋。
テーブルが5つくらいの小さなそこが、今夜の宴のスタートだ。
今夜はクリスマスイヴ。
シャンパンもワインも特別なのが振舞われるんだと聞いた女共が、一次会としてここを選んだらしい。
メニューも勿論クリスマス仕様。
ナミとロビンはそこそこ量を飲む。
チョッパーもいっちょまえに食うし、ルフィはトレーラー並に食う。
つまりは。
クリスマスだ何だとかこつけながら、結局はいい酒と美味い飯が量沢山ってことで、今夜の宴もいつもとほとんど変わらないサバサバした飲み食いになるだろう。
恋だの愛だのロマンだの、そんなのを吹き飛ばすような、色気もクソもねェ宴。

「で、何でお前もいるんだよ?」
「・・・・・。」
「確か、あー、ロクサーヌ、だったっけか?お姫様は。」
「・・・・・・ッッ!!」
花束とプレゼントを脇においた金髪アタマは浮上する様子もない。

「やめろよゾロ、でれかしぃがねぇぞ。振られたなんて突っ込むのは。」
「そうね、待ち合わせ場所まで来て断られるなんて、コックさんも少しショックよね。」
「そうだぞ、サンジの気合入れたプレゼントも全部パーなんだぞ。」
「そうそう、テハニーだぞ。」
「違うぞルフィ、ステファニーだぞ。」
「"ティファニー"よ、ふたりとも。」
「あ、そうなの?やだサンジ君、それなら私にちょうだい。」
「あら、S to Rって刻印したんでしょう?」
「はぁ?使えないわね。」


マユゲは突っ伏したままぶるぶると震えている。
・・・おれは初めてこのマユゲをかわいそうだと思った。


それでもまあ、こいつらとの飲みだ、憂さくらいとっとと晴らしやがれ。
そう思ってシャンパンを注いでやると、手だけはグラスに伸びた。
魔女たちも流石にいじめすぎたかと思ったらしい、
鞄からプレゼントの包みらしい物を取り出して、コックの前にそっと置いた。

「まあまあ、私たちがいるじゃない?元気出して。」
「そうよ、コックさんがしょげてるなんて、私もさびしいわ。」
「(がば)ナミさんっ、ロビンちゃん、この夜、どうか僕を君たちのものにっ!」

「・・・オメデタイな、おまえ。」
「ああ?!」


まあ、なあ。
考えてても、どうしようもないことは。
笑っちまえってことだ。
楽しい奴らと。



「だーっはっはっは!」
「んまーい!」
「肉ー、もっと肉ー!」
「ロビン、このシチュー、んんんまいぞ!」
「あら、ホント。」
「おい、シャンパンとビールと熱燗2本ずつ。」
「無茶言うな、ザルサボテン」

雑多で、でたらめなクリスマス。
いつものように楽しいから、それも悪くないか。
いつものように飯は美味く、酒も美味い。
馴染みの空気。


それを打ち破ったのは、おれの携帯だった。



無機質な着信音。

―ウソップだ。





教会、左4番の窓。


それだけ書いた、簡素なメールだった。




もう10時をとっくに回ってる。
パイプオルガンはとっくに歌い終えているはずの時間だ。

ぱちんとディスプレイを閉じたまま、手に残す。

おれがこいつらと宴会だってのは、ウソップは知ってる。
きっと一晩中おれたちは騒いで、寮に帰りはしないことも。
陽気な酒が大好きなウソップからの呼び出し。
いまからいくよ
どこにいる?まだあのみせか

そんな言葉だと思ってたのに。



教会、左4番の窓。





「とっとと行けよ。」
紫煙がふわりと、視界を掠める。
「いつまでもギスギスしやがって。言いてぇことあるなら、さっさと言えっつーんだ。」
へっ、と向かいから笑うのは、酒に緩んだ青い瞳だった。
「おら、失恋男がふたりもいるなんて情けねェクリスマス、おれは御免なんだ。
さっさと行け、アホマリモ。」
ばさり、投げつけられたのはおれのジャケット。


教会、左4番の窓。


テーブルの中央にあったシャンパンを、瓶から一気に飲み干して。

「ウソップによろしくな」
「・・・おう。」


おれは店を飛び出した。







1.徒花3.