「いいもん持ってるな!そいつ何だ?」

男の子は駆け寄ってきます。

その子のはじけるような笑顔は、冷たくさびしい教会には不自然なほどにまぶしいものでした。
ゆるゆると伸びるステンドグラスの光さえ、その子のまなざしにはかないません。
ヒルルクは、その男の子に笑って言いました。

「今日からみんなの仲間になるんだ。よろしくな、ボウズ。」

そういいながら、チョッパーをその男の子に向かせました。
男の子はうわぁ、と喜びの声をあげました。
きらきらとした目が、チョッパーを見つめていました。

「おれも今日からみんなの仲間になるんだ。よろしくな!」
男の子はそう言って、チョッパーの手を取りました。
握った手をぶんぶんと振り回しています。
きっと握手のつもりなのでしょう。

「おう、最初の友達だ。…ほら、こいつも嬉しそうだ!」
ヒルルクがそう言うと、男の子は、しししし と笑いました。

「このトナカイはな、チョッパーっていう名前があるんだ。ボウズ、お前の名前は?」


「おれは、ルフィ。」

その男の子は、誇らしく、自分の名前を言いました。



そのときです。
チョッパーの目に、教会のかわりに全く違う世界がやってきました。
その新しい世界は、ルフィの後ろでぐるぐるとまわっています。
そこには、おだやかな村がありました。ルフィによく似た小さな子が笑っていました。
小さな男の子の両親は見当たりません。
その代わりに、たくさんのやさしい目をした大人たちが、その子の周りに何十人も立っていました。
その中の一人、赤い髪をした男の人が、ふと小さな子の側によって、言いました。

「いつか、この帽子を返しに来い。」
そう言って、男の子に麦わら帽子をかぶせました。
とたんに、男の子の顔が涙でいっぱいになりました。

「ありがとう、おれを守ってくれて。」

男の人がそう言うと、男の子は声をあげてしがみつきました。
二人の周りにいた何十人もの大人たちは、いつの間にかたった3人か4人ほど残るだけになっていました。
おだやかな村は、灰色に染まっていました。
けれど、泣いてしがみつく男の子と赤い髪の人は気づいていないようでした。

「海で待ってるからな。」
赤い髪の人が、泣きじゃくる男の子の背を優しく撫でます。

「仲間といっしょに、海まで、この帽子を返しに来いよ。」
その声に、男の子は、男の人の赤い髪をつかみながら何度もうなずきました。

「また会おう、ルフィ。」


赤い髪の人がそう言うと、また世界はぐるりと回りました。




そこには、前と同じように、古ぼけた教会と、たくさんの子どもと、ルフィがいました。
ルフィが、不思議な顔をしてこちらを見ています。
「ん?どうした?」
ヒルルクが尋ねても、男の子は何にも言いません。

ただ、その手をこちらに向けました。

「こいつを抱いてやってくれるのか?」
ヒルルクがトナカイを差し出すと、ルフィは大きくうなずき、抱き取りました。

じいっと、チョッパーの大きな目を見つめてから、また嬉しそうに、にっと笑いました。


「おれの仲間だ。」

耳を澄ませると、ルフィの声が聞こえました。

『おれ もう 何もなくさないよ』
さっき聞いたいくつかの、小さな声とは全く違いました。

真剣な、つよいつよい声でした。

チョッパーの心はほほ笑みました。

こいつもきっと、誰かをしあわせにする
おれはこいつといっしょに 誰かにことばと しあわせをあげるんだ
きっとできる
おれたちは 仲間だから


ルフィの腕の中で笑うチョッパーを、ヒルルクはやさしく見つめました。

「頼んだぜ。」
そう言って、ぽんぽんとほおを撫でると、ちゅっと、青い鼻にキスをしました。
「あばよ、チョッパー。…楽しかったぜ。」
笑いながら、ヒルルクは離れていきます。

ちょっとさびしかったけれど、チョッパーは心で叫びました。


ありがとう おれもたのしかった!


離れてゆくヒルルクの背中は、ずっとずっと笑っていました。



こうしてチョッパーは、大好きなヒルルクと別れて、新しい仲間・ルフィと孤児院で過ごすことになったのです。








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