ご飯を一気にかきこんで、ルフィは寂しげな建物から飛び出し、昨日と同じように走り回りました。
ルフィがあまりにも楽しそうにはしゃいで回るので、抱きかかえられたチョッパーも、楽しくて仕方ありません。たのしいな
たのしいって、ルフィにいいたいな何度もそう思いながら、チョッパーはルフィの腕の中で笑っていました。
・・・もちろん、顔はぬいぐるみのまま、動きませんでしたけれど。
太陽がてっぺんに昇るころになって、やっとルフィは立ち止まりました。
止まったチョッパーは、くるりと辺りを見回します。
遠くから何人かのこどもが、ルフィとチョッパーを見ているのがわかりました。
訝るように見ている子、別のところではしゃぎながらちらっとうかがう子、ぎらぎらと睨んでくる子。
それはあまり気持ちのいい視線ではありません。
けれどルフィは、にっと口の端を上げました。
誰か、仲間になってくれるかな?ルフィ
そっとチョッパーは思います。
『ああ、たのしみだな。』
小さな声が 返ってきたような気がしました。
けれどチョッパーが見るルフィは、睨んだりちらちら見る子たちを見ながら、かわらず笑っているのでした。と、そのとき。
「お前、いいもん持ってるな!」
チョッパーの手をひっぱりながら、ルフィは物陰にいた小さな女の子のところへ、いちもくさんに走っていきました。
長い髪の女の子は、あっけに取られたようにルフィとチョッパーを見ました。
小さな腕には、チョッパーより幾分か小さい、鳥のぬいぐるみが抱かれています。女の子がびっくりしているのを全く気にせず、ルフィは続けました。
「何て言うんだ?こいつ。」
女の子は答えません。
いきなり声をかけられて、びっくりしてるんだよ ルフィ
チョッパーは黙って思いました。
「ああ、おれはルフィ、こいつはチョッパー。おれたち仲間なんだ。」
ルフィは得意そうに女の子に言いましたが、やっぱり女の子の返事はありません。
口をへの字にしたあと、ルフィはまた尋ねました。
「ないのか?なまえ。」
そう首をかしげると、女の子は鳥のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、うつむいてしまいました。
こたえない女の子を見下ろし、ルフィが困ったなぁという顔をした時、小さな声が聞こえました。
「……・かるぅ。」
「・・・それ、お前のなまえ?それともこいつの?」
「……・この子の。」
そっか、とルフィは嬉しそうに笑いました。
つられて、女の子も笑いました。
「なあ、お前のなまえは?」
ルフィがわくわくしながら、そう聞ていると、
「ちょっとあんた!」
教会の入り口から、女の子がひとり、ずかずかと歩み寄ってきました。
「ビビに何してるのよ!」
ずんずんと歩いてきたその子は、ルフィと女の子の間にすっくと立ちはだかりました。
大きいきれいな目をした女の子は、孤児院にいる誰よりも汚れた身なりをしていました。
赤みがかった髪もかわいらしい顔も泥だらけで、細長い手足がやけに目立ちました。
女の子の剣幕に、今度はルフィがびっくりしました。
「なまえ聞いてたんだよ。」
「カルー取り上げて、いじめようとしてたんじゃないでしょうね!」
「してねェよ!」
ルフィが口をとがらせました。
「ほんとよ、ナミちゃん。」
仁王だちの女の子の後ろから、髪の長い女の子が言いました。
赤みのある髪をかきながら、立ちはだかる女の子は尋ねます。
「この子、だれなの?」
「…院の子。」
「おれ、昨日こいつと入ってきたんだ。」
二人の会話に、ルフィはうれしそうに入っていきました。
「おれはルフィ、こいつはチョッパー。」
「男のくせにぬいぐるみといっしょなの?」
あきれたようにいう女の子に、ルフィはむっとして言い返しました。
「こいつはぬいぐるみじゃないぞ!」
「どう見たって、ぬいぐるみじゃない。」
「あれ、うん、ぬいぐるみだ。ぬいぐるみだけど、仲間なんだ。」
「ふーん。」
「チョッパーなんだ。」
女の子たちは、じっとチョッパーを見つめました。
「ねえナミちゃん、かわいいでしょう?」
長い髪の子がそう聞くと、ナミと呼ばれた赤い髪の女の子も、うれしそうに笑いました。
「うん、かわいいね。」
「抱っこしてみるか?」
ルフィのことばに、赤い髪の子も、長い髪の子も目を輝かせました。
「いいの?」
「うん、そのかわり、その鳥にさわってもいいか?」
すると、女の子たちは目を合わせました。
「どうする、ビビ?」
長い髪の子は、うーんと首をかしげながら、ルフィを見ました。
そして言いました。
「うん、いいよ。さわらせてあげる。」
にっこりと笑いながら、鳥のぬいぐるみを差し出しました。
小さなその子は、もう物怖じひとつしていません。
大喜びでチョッパーを抱き取り、赤い髪の子と二人でチョッパーをなでまわしたり頬ずりしたりました。
そんな二人を見て笑いながら、ルフィもうれしそうにカルーを撫でます。
なでられながらチョッパーは、ずっと楽しそうに笑う二人の女の子を見つめていました。
カルーを抱きしめたルフィが、たずねねました。
「お前ら、なまえは?」
赤い髪の子がこたえました。
「あたし、ナミ。路上にいるの。」
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