iv:はじまる

秋は確実に通り過ぎていきました。
ルフィは仲間のナミやビビといっしょに、来る日も来る日も院の内外を駆け回りました。
そして、隙を見ては黒い髪のウソップや、くすんだ金髪の男の子に話しかけたりしていました。
もちろん、腕にはいつだってチョッパーを抱いています。

ナミがお仕事に言ってしまう時間、ルフィとビビはいつも、ウソップに遊ぼうと誘いかけに行きます。
ちょっと臆病だけれど、明るくて物知りで、楽しいウソップをふたりは大好きになったからでした。
 うそつきのウソップは、いろんな話でルフィやビビを楽しませてくれます。
院の中も、院の外も、ウソップの手にかかればおとぎ話のように不思議で楽しい世界に変わるのでした。
 ウソップはそんなお話を、院でさびしそうにしている小さい子たちにもしてあげているようでした。

 チョッパーもウソップが大好きでした。
『ナミとなかよくして欲しいなあ。いいともだちになれるのに。』
顔を合わせるときゃんきゃんと怒り出すナミと逃げ出すウソップを見て、チョッパーはそんな風に思うのでした。


一方、くすんだ金髪の男の子は、何度呼んでもちらりこちらに青い目を向けるだけで何のおしゃべりもしてくれませんでした。
ナミやビビがいるときは少しばつが悪そうに、けれどそうじゃないときは遠慮なくぷいっとそっぽ向いて、ルフィたちから離れてしまいます。

チョッパーとカルーが並んで、3人でサッカーするのを眺めていたときも。
「わっ、ばかルフィ、蹴りすぎだって!」
「ウソップさん、あっちよ。」
「走れーウソップ!」

ウソップは、ボールのそばに通りかかったその子に言いました。
「サンジ!そのボール取って」
言うや否や、その子はボールを激しく蹴り返して、歩いていってしまいました。

首を傾げるルフィ、怯えたように肩を震わせるビビ、呆気に取られるウソップ。
3人とも、しばらくその一人ぼっちの背中を見つめていました。

『サンジって、言うんだな。』
チョッパーも、見つめていました。





透き通るような青い空の朝のことでした。

「今日は外!いちばんでっかい公園に行こうぜ。」
この辺りで一番大きい公園は、街のそばにあります。
チョッパーは一度、ウソップに連れられて、ルフィとビビとカルーとで来たのでした。
長いすべり台がたくさんと、ぶらんこがたくさん、それに噴水もある大きな公園でした。
ナミもお昼の仕事まで、一緒に遊ぶことにしました。
「だけどあんた、よく知ってるわね。街のそばのことなんて。」
「うん、教えてもらったんだ。」
「誰に。」
「ウ」「ダメ、ルフィさん、ないしょ!」
「・・・変なの。」
3人と2つは、うきうきと公園に向かいました。


「うほー!すべり台、やっぱでっけーっ!」
公園へ着くなり、ルフィは大きな声を上げました。
「待ってよ、ルフィ!」
必死で追いかけるナミとビビに構わず、

「チョッパー、貸してやるな!」
「ちょっと、ルフィ!」
「行ってくる」
そういって、弾丸のようにルフィは丘のてっぺんにあるすべり台へ駆け出しました。

「ふふ、おおはしゃぎね。」
「もう、子どもなんだから。」
そう言ってルフィに呆れながらも、女の子二人は、それぞれカルーとチョッパーを抱いて、ゆっくりぶらんこを漕ぎました。



ぶらんこからは、公園で遊ぶいろんな子どもの姿が見えました。
―水のみ場のそばで、疎開している大きなからだの子達にからかわれる、ウソップも。
「また、あいついじめられてるのね。」
ナミは突き放したように言いました。
「・・・やられても立ち向かわないなんて奴、嫌いよ。」
ビビは何も言わず、きゅっとカルーを抱きしめてうつむいていました。


秋の鳥が声を響かせる、うつくしい朝。
ナミたちのそれを打ち破ったのは、他の子供でした。

「キタネェ、あの女のチビ。」
「施設かな、路上かな。」
さっきまでウソップをからかっていた、大きなからだの子どもたちが、ふたりの目の前に10人近くやってきました。
すたんとナミはぶらんこを降り、ビビをかばうように立ちました。
「・・・なんの用?」
「げ、生意気。」
「遊んでやろうってのに。」
「要らない。行こうビビ。」

ぷいっと踵を返そうとしたときでした。


「何だよこりゃ。」
「きたねェぬいぐるみ。」
子どもたちは手を伸ばし、二人の腕からチョッパーとカルーを奪い取ってしまいました。


チョッパーに触らないでよぅ!
かるぅ、返して。

そう叫ぶ痩せぎすの二人を突き飛ばして、大きなからだの子たちはチョッパーとカルーをぽおんと空へ投げました。

「そっち行ったぜ!」
「オーライ」
「やめてっ」
カルーを受け止めた男の子は、そのまま別の子どもに蹴り飛ばしました。
チョッパーを受け止めた子は、ともだちと引っ張り合いをして、くれはが繕ってくれた角の縫い目を引きちぎってしまいました。
 必死でしがみつくビビを、追いすがり引っかいてくるナミを突き飛ばし、からだの大きな子たちはぬいぐるみをめちゃめちゃにしながら公園を回ります。


その道をふさいだのは、小さなひとつの影。


「もう、いいだろ?」

ウソップの声でした。







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