「返してやれよ。ボールで遊べばいいじゃないか。」
「何だと?貧弱長っ鼻が。」
向き直る大きな子達に、それでもウソップは一歩もひきません。
「はは、脚震えてんぞ?」
「返せよ。」
そうもう一度繰り返した途端、大きな子の一人がウソップを突き飛ばしました。
「じゃあ、今度はテメェがボールだな。」
大きな子たちは、転んだままのウソップにぬいぐるみを叩きつけました。
いたい
チョッパーが、カルーのからだが、きゅうと悲鳴を上げるほど、強く。
ウソップは細い両腕でぬいぐるみたちを抱きしめます。
「逃がさねェぞ」
ウソップは必死で大きな子たちに背中を向けて、そのままじっとうずくまりました。
顔に、ひざに、ウソップは、チョッパーとカルーのかわりに傷を作ってゆきます。
「ぎゃああああ!」
大きな子の悲鳴が、上がりました。
子どもたちは暴力を止め、振り向きました。
「な、何だよ、おまえっ!」
恐る恐るウソップも顔を上げました。
その先には、分厚い布からのぞく鋭いひとみがありました。
「何したんだよ、おまえっ!」
大きな子どもの一人が、その子に飛び掛ります。
ひらり、それはかわされ、大きな子どもの腕は分厚い布をふわりかき、だらりと落ちました。
「ぐぅ、う、う」
大きな子どもはそのまま、お腹をおさえてうずくまってしまいました。
ばさり
解けた布から、みどりいろの髪があらわれました。
「おまえ、おまえ」
「緑の髪・・・」
子どもたちは、顔を引きつらせて後ずさります。
とすん。
そこにぶつかったのは、
「ビビッてんじゃねェよ。」
ぎらり。
睨む、小さなルフィでした。
途端、大きな男の子のからだがふわり、宙に浮いて地に落ちました。
「おれの仲間に手ェ出したくせに。」
ぱきっと指を鳴らし、ルフィは睨みながらじりじりと他の子に詰め寄ります。
みどりいろの髪の子とルフィに挟まれた子どもたちは、固まって一斉に逃げ出しました。
ウソップは、呆然とふたりを見ていました。
みどりいろの髪の子が、手をウソップに差し伸べました。
何も言わず、ウソップはその手を取りました。
「それ」
向き直ったルフィが、笑いかけます。
「あいつらに、持ってってやれよ。」
ウソップの左腕には、やはりぎゅっとチョッパーとカルーが抱えられていました。
「おーい!」
ひざの痛みとかなしさと悔しさで、顔をくしゃくしゃにしているナミとビビの元に、ウソップは走ってゆきました。
「ちょっと汚れちまったけど、ほら!」
ところどころ傷をこしらえたウソップは、すっかりぼろぼろになってしまったぬいぐるみを、二人に掲げて見せました。
ふたりの大好きなぬいぐるみ。
カルガモの目は片方つぶれてしまっていました。
チョッパーの大切な角は取れかかり、ぶらぶらと揺れていました。
ウソップからぬいぐるみを受け取ると、ナミとビビは、声を上げて泣き出しました。
「うわぁぁぁああん」
ウソップは、かなしそうにうつむいてしまいました。
「ごめん。ボロボロになっちゃって。」
泣きじゃくる二人の前で、ウソップは声を震わせて謝ります。
「ほんとは、ちゃんと取り返したかったんだ。」
「うわあああん」
チョッパーを抱きしめるナミが、しゃくりあげながら必死に首を振りました。
「おれ、ちから、なくて、よわくて」
にぎりしめた拳を震わせて、ウソップはとうとう泣き出してしまいました。
「ううっ」
ぎゅっとチョッパーを抱いて、ナミはようやく泣き声をちょっとだけ止めました。
そして、泣いたままの顔で言いました。
「ありがとう」
震える声に、ウソップは目を上げました。
「ともだち・・・取り返してくれて、ありがとう。」
3人はそれからずいぶん長いこと泣いていました。
戻ってきたルフィはそれを見て、しししっとうれしそうに笑いました。
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