教会で過ごす夜は、ずいぶん冷たくなりました。
けむりはきの男も、このところはルフィが教会で寝ようが部屋で寝ようが、構わなくなっていました。
「「お休み、ケムリン」」
「おう、冷やすなよ。ふたりとも。」
今日もルフィは特等席で、お仕事から帰ってきたナミと並んで眠ります。
ウソップとビビは生活棟で、お話しながら眠るのでしょう。
「ねえルフィ、」
「んあ?」
「ゾロって子、いっつもあんたの隣で眠ってるんでしょう?」
「・・・そうなのか?」
「・・・にぶいのね。」
「(むか)失敬だな!」
ぐるり、ルフィは寝返って、今はまだ誰もいない自分の隣を見てみました。
「今日帰ってくるまで、おれ起きてようかな。」
「・・・無理でしょ。ルフィだもん。」
「失敬だな、おまえ!」
「明日さ。」
「ん?」
「起きたら、呼んでみない?」
いっしょに遊ぼうって。
それはいいな、と笑って、ふたりはそのまま笑って眠りにつきます。
「「おやすみ、チョッパー。」」
『お休み、ルフィ、ナミ。』
ふたりに挟まれたチョッパーは、そう心で呟いて、夜が更けてゆくのを待ちました。となかいさん
となかいさん
静かな呼び声でした。
意識をゆっくりたぐり寄せると、黒い髪がそっと揺れるのが見えました。
『ロビン?』
おともだちが帰ってきたわ。
そうとだけ囁いて、またふわり、ロビンの気配は消えてしまいます。
代わりにやってくるのは、冷たい教会の床歩く、ひたひた、と小さく鳴る足のおと。
きょろり、チョッパーはそのひとみを動かしました。
隣に、いつもの分厚い布をかぶった影です。
・・・ゾロが、来たのです。
いつものところ。
ルフィの隣、少し空いたところにその子はすとんと腰を下ろしました。
「――ただいま」
それは、とても静かなやわらかい声でした。
チョッパーは身じろぎもせず、じっとゾロを見つめます。
「おまえ、大丈夫だったか。」
ルフィの肩越しに、その子の小さな声はぽつぽつと降ってきます。
「よかったな。」
合間に聞こえるのは、ゆるゆると伸びる子どもたちの寝息だけです。
ルフィも、ナミも、他の子どもも、起きてはいませんでした。
「守ってもらえて。」
ゾロの声は、確かにチョッパーだけに向けられていました。
ああ、けれど転がったままでは、ゾロのかぶる布しか見ることはできません。
腕は必死に、ルフィに伸びました。
ナミにも伸ばしたけれど、こちらは少し遠くて届きません。
だから一層、ルフィのほうへ、チョッパーは腕を伸ばしました。
ルフィ、ルフィ。
「ルフィ。」
ルフィ。起きて。
ゾロが、帰ってきたよ。とん、とひづめの手がルフィのほおに乗っかりました。
とん。
とん、とん。「・・・ん・・・」
何だよナミ、といいながら、ルフィはゆっくり目をこすりました。
『ルフィがおきた。』
ルフィは、さっきまでほおにあったぬいぐるみの手を、きゅっと握ります。
「・・・チョッパー?」
少し眠気のひいた黒い目が、チョッパーのひとみをのぞき込みました。
『おれが起こした!』
それがとてもうれしくて、チョッパーはゆっくり、ゆっくり、ルフィに笑いかけました。
目を丸く丸くしたかと思うと、ルフィはがばりと起き上がり、チョッパーを両手で抱き上げました。
「おまえ、笑うんだな!」
月にぽうと照らされたその顔は、きらきらととてもまぶしく笑っています。
「おれが、わかるんだよな!」
そういって、ルフィはチョッパーを揺さぶりました。
ルフィ。
チョッパーは呼びかけました。
「ルフィ。」
伝えたいことを思い浮かべて、チョッパーは呼びかけました。
「ゾロが、帰ってきたぞ。」
ぱあっとルフィは笑いました。
そのままぐるっと、分厚い布の合間から見える、真ん丸になったゾロのひとみに笑いかけました。
「なあなあゾロ、見ろよ!チョッパー、動くんだぜ、話せるんだぜ」
「・・・ほんとだ。」
「やっぱり、お前には心があるんだ!スゲェや!」
『おれのことば、通じた』
チョッパーもますますうれしくなります。
思ったとおりだ。
そうルフィは繰り返しました。
ゾロは静かに、けれどやっぱりおどろいた顔で、こちらを見ていました。
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