ルフィはぎゅうぎゅうとチョッパーを抱きしめました。
「教えてくれてありがとな、チョッパー。」
「うん。でもナミには、手、届かなかったんだ。」
「そっか、じゃあおれが起こしてやるよ。びっくりすんぞー…」
ところが、そこに静かな声が入ります。
「そいつ、起こすなよ。」
隣にいる、ゾロでした。
「・・・仕事だったし、けがしてんだろ?そいつ。」
「でもよ、チョッパー動いたんだぜ?」
ルフィは首を傾げます。
「昨日までは、どうだった?」
「全然。びくりとも動かなかったぜ。」
毎日毎日煤だらけになって帰ってくるナミ。
どれほど大変なお仕事なのか、チョッパーにもわかりませんでしたが、それでもこの安らかに眠ることのできる時間は、ナミにとってはとても大切なものでしょう。
チョッパーは、二人にそっと教えました。
「夜、動くんだ。」
だから、明日、おれからナミに話してみるよ。
チョッパーの考えに、ルフィもゾロも、満足そうに頷きました。
「おまえ、いい奴だな。」
ルフィがゾロにそういうと、ぎょっとゾロは表情を変えました。
「・・・・・別に。」
静かに、それでも確かによろこんでチョッパーを見つめていた目はどこかへ消え、分厚い布の合間には鋭く厳しいまなざしだけが残ります。
それでもルフィは、にこにことゾロに笑いかけました。
チョッパーも言いました。
ゾロ。
「ともだちに、なってくれる?」
チョッパーは、ゾロに手を伸ばします。
――ゾロの答えはありません。
「ゾロ」
「ともだちなんて、なくていい。」ふい、と視線を外し、ゾロはそっけない答えを返しました。
あれ、とチョッパーは思います。
おかしいな。
ウソップを、おれとカルーを助けてくれたのに。
いつも、ルフィの隣で眠るのに。
きゅう、とどこかが切ない声を上げました。
だから、チョッパーはあきらめませんでした。
「じゃあ、夜はいっしょにいよう?
ゾロも、ルフィも、おれの恩人だ。」
「なかよくしたいんだってさ、チョッパーは。」
おれもだけどな!
そう言って、チョッパーを抱いたルフィはその笑顔をゾロに向けました。
「・・・それなら、いいよ。」
かちゃり。
ロビンのくれた力が、恩人の心を少しだけ、開けたような気がしました。
月の光がステンドグラスからさんさんとこぼれてきます。
ルフィがとてもうれしそうに笑っているのがよく見えました。
夜の仲間に、と、ルフィはチョッパーをゾロに渡しました。
「おかえり、ゾロ。」
「・・・おう。」
戸惑いながらもゾロはその夜、チョッパーを腕に抱いて眠ったのでした。
「ナミ、ルフィ、おはよう!」
「おはよう、ウソップ。」
「おはよ、ゾロ。」
「・・・・・」
「ほら、何してんだよゾロ、行くぞ?」
「・・・昼間は、忙しいんだ。」
「そんなの知らねェし。行くぞ!」
分厚い布をかぶったゾロは、チョッパーをルフィに渡して、小さな低い声で言いました。
「・・・お前、夜だけって言ったじゃねェか。」
「昼間声かけねェなんていってねェもん!」
そのままルフィは、ゾロの腕を引っ張って教会を飛び出しました。
「みんなー!今夜は教会で寝るんだかんな!」
「え、どうして?」
「おれ、寒いところで寝てはいけない病が」
スッゲエいいものみせてやる!
そういって、ルフィは先頭を走っていきました。
「クソつまんねェ。」
ゾロのそばではしゃぎ回る4人に向かって、小さな声がしました。
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