まずは、サンジをさがさなきゃ。
心の音が聞こえる耳をしっかりとそばだてて、チョッパーはサンジの声をさがします。
サンジ。
たった一人で、刃物をさがすサンジ。
どこにいるのかな。
―応えるように、うう、と小さくうなるような声がしました。
あっちだ!
たたたたとチョッパーが駈けてゆくにつれ、声は大きくなってゆきます。
いつもその日の終わりにチョッパーが向かう教会から、その声はしました。「うう」
教会の裏。
がさがさと、植え込みの辺りをいじる音がしました。
「うううっ」
教会の中の光もこぼれない暗闇で、ガタガタと震えながら必死に植木のそばにもぐりこむ小さな背中は、確かにサンジのものでした。
サンジ。
チョッパーがそっと呼びかけると、がばり、ものすごい勢いでその背は振り返りました。
見開かれた青い目は、暗がりの中でもぶるぶると揺れているのが見えました。
「・・・何の用だ。」
「寒いだろ?これ着けろ。」
そういって、ひったくってきたマフラーを持った手をサンジに伸ばします。
「今、忙しいんだ。」
くるり、サンジはまた背を向けてしまいました。
チョッパーは植え込みにのぼり、そのまま前に回ってサンジの首にマフラーを巻きつけました。
ぬいぐるみの手で、すっかり冷たくなったサンジのほっぺたもこすってやりました。
「ちょっとはあったかいだろ。」
そう笑いかけてやると、サンジは静かに頷きました。
からだのふるえは少しおさまったようです。あたたかくなって、少し落ち着いたのでしょう。
ひゅうひゅうと風が鳴き続ける中、チョッパーはゆっくりたずねます。
「さがしもの、してるんだろ。」
こくん。金髪が揺れました。
「この寒さだ、まずはあったかいもの着て来いよ。」
・・・これには、ふるふると首を振りました。
容赦なく吹きつける夜風、サンジのからだはきっと冷え切っています。
「からだ、壊しちゃうぞ。」
サンジは何も応えません。
毛糸のマフラーを、ただきゅっと握りしめただけでした。
チョッパーは、さらにたずねます。
「そんなに、大事なものか?」
大きく、うなずく頭。
「おれの、たからなんだ。」
寒さに震えた、けれどしっかりとした声で、サンジはそういいました。
「チョッパー!」
教会の入り口近く、なじんだ声がしました。
はっとサンジは身を固くします。
「チョッパー!どこ行ったー?」
ウソップの声でした。
「おーい、ここだぞー!」
そうチョッパーが叫ぶと、ウソップがひょこっと裏側をのぞきこみました。
「おう、何でそんなとこいるんだよ。ルフィとビビとでさがしたんだぞ?」
ウソップはおでこに安物のライトをくっつけて走ってきました。
「うん、おれもさがしものだ。」
答えながら、チョッパーは眩しさに目を閉じました。
闇に慣れた目には、ずいぶんその光が鋭く突き刺さります。
ウソップが二人のそばへきたとき、びゅうっと吹いた強く冷たい風に、その光が揺れました。
はらり。
風に舞い上がる金髪の下、赤い痕が照らされました。
赤黒くただれたような大きな痕は、額から頬まで長く長く延びていました。
「うわっ」
あわててサンジはそれを両手で隠します。
ひゅっと、ウソップが息を呑むのが聞こえました。
「・・・あっち行けよ。」
低く低く、呟く声がしました。
うつむいたままのサンジを、チョッパーもウソップもただ見つめています。
ずきん。
激しい痛みがチョッパーの心にやってきました。
きっとサンジは顔を上げました。
「ジロジロ見てんじゃねェ!」
激昂する声。
けれど残された右のひとみには、涙がいっぱい湛えられていました。ひゅうひゅうと風の吹きぬける中、ぱちんとライトを消して、
「やけど、」
ウソップが口を開きました。
「痛くないのか?」
心配そうな目で、ウソップは問います。
ぴゅうと鳴る風に紛れそうなほど小さな声で、サンジは返しました。
「痛くは、ねェ。」
「そうか、よかった。」
ウソップは、ほっとしたように笑いました。
ちょっと待ってな、とくるり踵を返し、ウソップは走ってゆきます。
その背を見送り、はあとサンジは手をほおに当てたまま息を漏らしました。
チョッパーは、黙って二人を見ていました。そのウソップが戻ってきたときには、ルフィとビビがいっしょについてきていました。
「よしチョッパー、さがすぞ!」
ウソップからさがしものをしていることを聞いたのでしょう、駈け寄ってきたルフィは真っ先にそういいました。
ルフィはウソップから、額のライトを受け取ります。
「ウソップ、ビビとサンジ連れて生活棟をさがしてくれ、おれとチョッパーで教会の周りをさがすから。」
「わかった。」「うん!」
「余計なことすんな!」
あわててサンジはそういいましたけれど、
「ほら、行くぞ。」
「いきましょ、サンジさん」
二人に手を引かれて、そのまま行ってしまいました。
「で、何さがしゃいいんだ?チョッパー。」
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