パチン。
サンジは持っていたライターで、ポケットの中から取り出したたばこに火をつけました。
「悪ィな、遅いのに。」
「・・・おれはいいけどよ、サンジは眠んなくていいのか?」
「気にすんな、どうせ眠らねェんだ、夜は。」
そう言いながら、ふわり、白い煙を吐き出しました。
ベッドの上に座り込み、チョッパーにもたれながら、ルフィはサンジに向きました。

「で?どうしたんだ?」
「お前さ。」
いっつもはしゃぎ回ってるだろ、そいつといっしょに。

見つめられたチョッパーは、ぱちんとひとつまばたきします。
重なったひとみはふわと笑みました。
それは、毎晩キッチンで見かける、やわらかくて少しさびしそうな顔でした。

サンジはごみ箱を手繰り寄せて、ルフィのベッドの端にそっと腰を下ろしました。

「連れも、いっぱい。」
「ああ、何かそうなったな。スゲェヤツばっかりだぞ、おれの仲間は。」
「いっつも、笑ってる。」


「・・・あ?」
今度はルフィが、ぱちんと瞬きしました。

「そうか?」
「ああ、遠くからでも、すぐわかる。」
かみしめるように、サンジは言いました。

冷たい、暗い部屋を、吹き上げられた煙は伸びやかに漂い、ふわり とけてゆきます。
「ずっと気になってた。
お前が、おれみたいになること、ねェのかって。」




呟いたサンジの声は、幾分硬さを帯びていました。
きゅ、と誰かに締め付けられるような音を、チョッパーの心臓がたてました。


「おれはときどき、憎しみでつぶれそうになる。」

おまえは?
ないのか?
「おまえ、大事な人をさがしにいくって言ってた。」
そんな人と会えなくさせたやつらが憎くないのか?
それとも、会えない理由になった自分が憎くないのか?

煙に紛れて、チョッパーからはサンジのまなざしがよく見えません。

ルフィはチョッパーに寄りかかっていたからだを浮かせ、まっすぐに座りなおしました。
んーっと首をかしげ、バリバリと頭をかいて、答えます。
「あんまり、よくわかんねェ。」
拍子抜けしたか、それとも予想通りだったのか、サンジはふうと溜息をつきました。



「・・・うらやましいぜ、お前。」
「そうか?」
「ああ、おれとは違う。」
もう一度、サンジはタバコを口元にやり、大きく息を吸い込みました。
「やっぱ、いっぺんこうなったら、どうにもなんねェのかもな。」


あきらめたようにサンジは言いました。
けれど。


どくん。


何か激しく突き上げるような心臓の音を、チョッパーは聞きました。
きゅうきゅうと締め付けられる中、激しくなったそれが知らせるのは――


「おれのこと、ちょっとしゃべっていいか?」
サンジのこころが、こぼれ始めた合図だったのかもしれません。







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