チョッパーは、ルフィを揺さぶり、とんとん、と手を頬にあてました。
「ルフィ」
「・・・ぉろ?」
「うん、帰ってきたよ」
むくり、ルフィはからだを起こします。
扉のそばにいたゾロは、いつもより随分遠くで足を止め、座り込みました。
「あれ、ゾロ?隣来ないのか?」
返事はありません。
「こっち来いよ。」
誘う声にも返事をせず、ゾロはじっと座り込んだままでいました。
チョッパーはすたすたとそのそばまで歩き、手を取ります。
「行こう、ゾロ」
くい、と引くと、ゾロは素直に立ち上がりました。
『おれたちから、離れたい訳じゃないんだな。』
チョッパーは少し、ほっとしました。
そのまま、二人はルフィのそばに腰を下ろします。
「うーさみィなあ。」
「・・・」
「ほら、もっと引っ付いていいぞ。寒いだろ?」
「・・・・・」
ゾロの返事はありません。けれどルフィは続けます。
「ゆっくり寝ようぜ。」
「・・・・」
「何せ、明日はクリスマスだ。忙しいぞ。」
「・・・・・」
「みんなで大騒ぎ、夜まで遊ぶんだ。楽しみだな。」
「おれには、関係ない。」
ようやく出たのは、少し硬い声でした。
「そっか」
ルフィはぐるん、からだをこちらに向けました。
「でも、ゾロ、寝とかねぇとしんどいぞ?」
チョッパーは、分厚い布をかぶったままのゾロをのぞき込みます。
「そうだな、明日は昼寝なんてゼッテェできねェからな。」
しし、とルフィは笑いました。
チョッパーはそのまま、ゾロの膝に乗っかりました。
ぽんぽん。
撫でた頬は、氷のように冷え切っていました。
「うわ、冷てェ」
そのまま、チョッパーはごしごしとゾロの頬をこすります。
ルフィはいいました。
「ほらゾロ、チョッパーにぎゅーっとしてもらえ。あったかくなんぞ。」ふう、とゆっくり、ためいきの音がしました。
「・・・勝手に人を巻き込みやがって。」
「あ?」
チョッパーはぱちっと大きく瞬きひとつ。
頬をこする手を止めました。
「あの変なマユゲも、ナガッパナも女も、みんな巻き込んじまって。」
「・・・何言いてぇんだ?お前」
ルフィはじっとゾロを見つめました。
「大したもんだ、って言ってんだ。」
すやすやと眠るこどもたちを、ゾロは静かに見つめます。
「最近、何っつーか。」
チョッパーの帽子を軽く撫でて、ぼそ、と呟きました。
「ここ、あったかいんだ。」
「そうかぁ?めちゃくちゃ寒いぞ。」
ほら今だって、とルフィはがたがた震えて見せます。
違ェよ、とゾロは眉をひそめました。
「何か、どいつも」
もごもごと、ゾロは続けました。
「・・・よく笑ってたり、とか。」
きょとん、とチョッパーとルフィが見つめました。
ばつが悪そうにうつむくゾロに、ルフィはそのまま返します。
「前から結構笑ってたぞ。」
じろ、とゾロは、ルフィのひとみを見返しました。
「お前らが知らねェだけだ。」
ふーん、と鼻を鳴らし、ごろごろとルフィは転がります。「ゾロも、そうなのか?」
「え」
「だって、チョッパーといると笑うもんな、お前。」
「違う。」
それは、とても強い否定の言葉でした。
「おれはもっと違う。笑ったりしない。あいつらとは違う。」
ぴり、ぴり。
チョッパーの心が、震えます。
「だから、今、困ってる。」
低い声が、高い天井に静かに伸びました。とん、とチョッパーは、ゾロのひざに腰を下ろします。
そしてそのまま、ゾロを見つめました。
じっとじっとゾロを見つめました。
するとゆっくり浮かんできたのは、からだを貫く、一筋の溝。
「ゾロ・・・どうしたんだ、それ。」
チョッパーはたずねます。
「わかるのか。」
着たシャツの上からそっと、ゾロはその溝を撫でました。
「傷だ」
ルフィは静かに、ゾロの指先を見ていました。
ゾロは、続けます。
「つけたのは、おれの親友を殺した奴等」
どくん。
心臓が、跳ね上がります。
「知ってるよ。復讐なんざばかばかしいってな。
けれどおれは、受けた傷に報いた。」
どくん、どくん。
「そいつらを殺して、おれは生き延びたんだ。」
ギリリ。
ぬいぐるみの身体を鋭い痛みが横切りました。
vi-4 | 目次 | vi-6 |