桜の花びらが緑葉に紛れてゆく頃、太陽の傾き始めたほうからきゃんきゃんとでっかい声がした。
耕す手を止めて牛飼いと二人振り返ると、みかんみたいに真っ赤っかになった女がふんぞり返って立っていた。
信じられないありえないばかじゃないとわめき散らす女は、
騒ぐだけ騒いでひょいといなくなる。

「何だあいつ」
「ほっとけ、続けるぞ」


そう言うや、ごとごとごとと音立てながら
女はでっかい車を引いて戻ってきた。



「「じゃますんなよ」」
「じゃまなんかしないわよ、見てられないだけ」
「何だそのでっかい車」
「…知らないの?あっきれた」

深くひとつため息ついて、女はそのでっかい車でおれたちの田んぼに乗り込んだ。
「「おいっ」」

ごとごとごと。

「良かった、まだ十分働くわ、このトラクタ」


ごごんっ、ごごごんと不穏なうなり声をあげながら、
車は黒土をたたき起こしてゆく。

「大体ね、このだだっ広いところをトラクタなしで田おこしなんて無謀なのよ」
せめてそいつから牛借りるくらいはしてもよかったんじゃない、
と女は牛飼いを指した。


「牛?牛は田おこしに使えるのか」
「知らなかった」
「いや、こりゃ助かったな、百姓」
「そうだな!ありがとう」



ふう、ともうひとつため息をついて、女は言った。
「みかん畑に余裕がある日は、手伝いに来てあげる。
だからいいお米が出来たら、ちょうだい」

そう笑う女は夕映えに染められていて、やっぱりよく熟れたみかんそっくりだった。


あと3/4も残っていた田おこしは次の日に終わった、おれは感動のあまり声を上げた。
そしたら、4月になって何日たってると思ってんのと怒られた。
まあいいじゃねぇか、
おれと牛飼いとみかん女とで、その日は大きく万歳三唱をした。






1.3.