嗚呼青春の一頁



iv :何だかんだで男は汗と涙だろ






電線のない大学構内の空は今日も広く、青い。
正門前の並木も次第に色づき始めた。
すっかり秋だと感じ入った声がそこここできこえる。

けれど今、ウソップはそれどころじゃなかった。
自転車の籠いっぱいに入ったスポーツドリンクの山。
肩からはウォータークーラーを斜めがけ、背には包帯とテーピングとスプレー缶、あとおにぎりがこれも山。
ただ一人よたよたと自転車を漕いで、ウソップは秋の空を詠むこともなく向かった。
戦士たちの待つ、決闘場へ。



「お、ウソップー!」
「遅いわよ!」
「ワリィ、遅くなった!」

自転車置き場では、今か今かと待ち受ける影が二つ。
監督のチョッパーと、ココヤシ女子寮から特別にお招きしている参謀ナミ。





男子寮が4つ、女子寮が3つ。
男子寮同士は、時々こうしてスポーツ勝負をする。
別に何も賭けやしない。賭けるのはただ、寮に生きる男の誇り、それだけだ。
負ければ泣く。勝てばまたそれはそれで泣く。
そんなやけくそな熱さを抱えて、彼らはどこまでも戦い続ける。



今日も今日とてバスケット。
普段なら真っ先に参加するウソップだけれど、生憎練習日程が合わなかったので今回は応援に廻る。
・・・そのせいで、本来マネージャーのはずのナミから、マネージャー業のほとんどを押し付けられる羽目になった。
「お前、ちょっとは働けよっ!」
「うるさいわね、女の子にそんな重いもの持たせるつもり?」
「いつも手伝ってくれる子たち呼べばいいじゃねェか。おれは応援団長なんだぞ!」
「そうは行かないのよ、今回は。」


そう、今回の相手はアラバスタ男子寮(AMD)。
普段GMDの手伝いをしてくれるビビたちバロック女子寮の面々は、全部あっちの応援に行ってしまうのだ。

「みんなどうだ?チョッパー。」
「おう、ご飯も食ったし、バッチリだぞ。」
「スタメンはルフィ。・・・わかるわよね、ウソップ?」
「おう。」

今から山ほど食わせとけば、勝てるってことだ。
そのためには、あとおにぎりを15個くらいは食わせなくちゃならねェ。
足りんのかオイ、とごちながら、すたすた歩く2人を追ってよたよたとグラウンドに向かう。





「あっ、ウソップ!」
「遅ェ!早くポカリよこせ。」
「なあチョッパー、タオルあまってないか?」
「なあウソップ、おにぎりあまってないか?」
「ナミさんっ、いい作戦思いついたよぉ〜☆」

3人がGMD側のかたまりに到着すると、我先にとどいつもこいつも集まってきた。
ウソップには、頼んで置いたいろんなものをとりに。
「だーっ!すぐに出すから2秒待て!」
ナミとチョッパーには、今日の作戦を決めに。
「はいはい、じゃあ、集まってくれる?」




『サンジくーん、頑張ってー♪♪』
「うわーん、みんなからこんなに応援、嬉しいなハハァ〜vv
「(ぼそ)…うまくウチの後輩仕込んでるじゃないの、応援団長。」
「当たり前だ、男の勝負だからな。」
勝つために、手段など選んでいられるものか。
あのヤンキーどもに黄色い声を出させるのがどれだけ苦労だったか。
さすがおれ、冷酷なまでの策士振りに目眩がするぜと(誰も聞いてないのに)うそぶきながら、ごそごそと荷物をより分けていると。

「あの、すいません、」
小柄な女の子が一人、ウソップの元へやってきた。
確かナミの寮の子だっけ。
「どーしたの?」
「え、えと、あの」
緊張した面持ちが追っているのはどうも、毎日部屋で見る緑頭。

「まって、ゾロ呼ぶぞ。」
その子が頷くのを見て、おおい、とウソップは呼ぶ。

目が合うや、ゾロはずかずかとこちらへやって来た。



「あ、あの、これ、」
そういって差し出されたのは、深緑の布地に包まれた荷物。
「ロロノアさんに…」
「おいウソップ!」

え?

「・・・あ?」
「おにぎり。もうねえのか?」
「え、いや、その。」
その子、明らかに、お前への弁当持ってるんですけど。

そういう間もなく、ゾロはウソップの手元を覗き込む。
「何だ、有るんじゃねェか。食わせろって。」

いや、
だから。
お前への弁当をホホ染めながら持ってきてる女の子がいて。
…って、ひぃぃぃ、彼女めっちゃ睨んでるし。



なあ、ゾロ、おれの 彼女の はなしを。






ぱくん。



ウソップの手の中で握りつぶされそうなおにぎりに、ゾロはそのままかじりついた。
「美味いなァ。やっぱおにぎりはお前のがいちばんいいな。」
「あ、う・・・」





女の子はぷいといってしまった。
去り際、何か呪いみたいな言葉が聞こえたような気がした。
ウソップの耳にだけ。












iiiiv:決戦と結末と