嗚呼青春の一頁


v:ゲイジツの秋は内に外に




目覚めたら、真っ暗だった。

土曜日の昼下がり。
既に一日のノルマはこなし、これ以上効果的なトレーニング方法も思いつかなかったので、ゾロはいつものように自室で眠りについたのだ。
ちょっくら昼寝、のつもりだった。


「あー・・・」
あくまで、どこまでも、いつもどおりの土曜日だ。




そろそろ腹になんか入れねェと、とゾロはビール片手に部屋を出る。

「出前頼む奴、いるかー?」
そういいながら入った談話室には、人の影はない。
ああそうかよ、今日は土曜日だ。
どいつもこいつも出かけやがってと、イチャモンがてら出前のメニューをあさってゆく。

「ただいまぁ〜…って何だ、マリモだけかよ。」
「こっちのセリフだ、アホマユゲ。」

何だコラ やんのかオラ
なんていういつもの遣り取りが珍しくなかったのは、土曜の夜だからだろうか。
何を言うでもなく、ゾロはテレビをつけ、サンジは買い込んだチップスとビールをがさがさと取り出す。
「おいゾロ、」
「あ?」
「おれビデオ見るぞ。」
「・・・何見るんだ。」
「パルプ・フィクション。」
「お。」
「どうした?」
「・・・いや。」


・・・・・



「…見るか?」
「・・・・・見ていいか?」


再生。
当然、出前は取りやめ。ゾロのビールとサンジのチップスがその代わり。
プロローグ、疾走するギター。
スタイリッシュに吹き出す血を、
ユーモアたっぷりに流れてゆく物語を、二人食い入るように見つめる。




気付いたときには、ずいぶん夜は深まっていて。
「うおーい、かえったぞーい!」
「ただいまー!」
「いやーチョッパー、実に大冒険だったな!」
「おお、大冒険だったぞ!」
帰還を遂げたルフィとチョッパーが、談話室に入った頃には、
「あれ?」
ビールが7缶ほど転がっていて。


「いいよな、タランティーノ!」
「おう、すげえよな。」
「パルプ、どの話好きだ?」
「やっぱ水ぶっかけられて、着替える話。」
「あー、わかるわかる。あのびっみょーな。」
「そうそう、あのびっみょーな。」

『ただいま。』

「ゾロ、レザボア・ドッグス見たか?」
「当然。」
「あれもスゲェな。」
「サントラ買ったっつーの。」
「マジ?貸してくんね?」
「おお貸す貸す、あとで部屋に・・・」



白熱する談義から、ふと目を上げたソファの縁には
『うっ』

両肘ついて二人を見ている二人があった。




「お前ら、いっつも仲良しだなー。」
『ざけんな!!』

「ゾロとサンジは仲良しなのかー。」
『決めんな!!』



やっぱり仲がいいらしかった。






ぷいっとそれぞれ天井を睨みながら、仲良しだった二人は残ったビールをぐびぐびと空ける。
もう映画の話はしないらしい。
そっぽ向く二人をくいっと引っ張って、ルフィは自分のほうへ向かせた。
こういうときは、大抵何か思いついたとき。

「なあ、明日晴れたらお前らも冒険しようぜ!」
「どこにだよ。」
「何のだよ。」
「見つけたんだ。すっげえぞ!宝の山だ!」
そう言って、ルフィとチョッパーはそれぞれ宝の山を称え始める。
ルフィの実家にあるような やけに古めかしいキャビネット。
チョッパーの腹毛みたいな ふわふわぬくぬくの毛布。
ウソップが喜びそうだぞ。
あ、ナミは行くっていってた。ロビンも誘うって。




「行くだろ?」





そういうわけで。
明日は青い空の下、宝探し。


備えて、今夜はもう眠ることにした。



「ただいま…ってゾロ…まだ寝てんのか?」






*****
学生時代。
タランティーノは大人気でした。
周りの男共と、結構な数の娘たちに。
ということで。

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