嗚呼青春の一頁


v:ゲイジツの秋は内に外に





遠足日和。


赤々と舞い落ちる葉の洗礼を浴びながら、バスはよたよたと進んでゆく。
「どこまで行くんだ?ルフィ。」
「おれ忘れた。チョッパー、どこだったっけ?」
「ええと、あと7つ先だ。」
「ずいぶん遠いのね。」
「ぐがー」
「そのあと、20分山登りだぞ。」
「遠っ!」
「ちょっと、前もってちゃんと言ってよ、スカートで来ちゃったじゃない!」
「お前が悪ぃんだろ?ちゃんと宝探しって言ったじゃねェか。」
「そんな言葉でわかるわけないでしょ!」
「あてっ」
「スカートなナミさんも最高に素敵だー!」
「ぐがー」

名も知らぬ山の中腹。
庇もないバス停で降りて、一行はのそのそと道なき道を歩き出す。
ひらひらと舞い散る紅い葉はいつの間にかどこかへ降り尽くし、迎えるは季節を越えて立つ常緑樹。
不意に視界は広がった。



「おお!」
「へえ・・・」
「な、な、スゲェだろ?」



それは。
広がる原っぱ、そして無造作に置かれた不要物たちの山。
誰かにとっての、不要物の山だ。

「宝の山か。」
「うまいこと言ったわね。」

そう、誰かにとっての不要物の山。

自分にとっての宝は、果たしてあるか?

こんな探検を、あの冒険好きのルフィが放っておく筈もない。
そう振り返る前に、言いだしっぺは山のど真ん中に走っていった。


「チョッパー!またあったぞ、本の山ぁ!」
「うおお、今行くぞー!」
「あら、あのキャビネットはちょっと素敵ね。」
「ホント、かわいい!持って帰るには重いかな?」
「お、スケッチブック…かー、半分以上あまってるよ、勿体ねェなあ。」
「マリモさん、あっちにある本、テメェ向けよ?」
「アァ?何か言ったか渦潮マユゲ。」


うららかな日。
吹く風は少し冷たいけれど、さんさんと注ぐ陽がすぐに暖めてくれる。


それぞれ散らばり、そしてまた気まぐれに集う。
幾度もそれを繰り返しては、めいめい宝の山をがさがさと探り続けた。



娘たちの目に付いたのは、懐かしい型の花嫁道具。
「ドレッサーを部屋に置くなんて、考えもしなかったわ。」
「けど、全身鏡ならやっぱり便利よね。」
「化粧品がしまえるのは、ちょっといいかも知れないわね。」
「あー、これで縁が割れてなかったらなあ。」


男たちの目に付いたのは 陽だまりに佇む懐かしい色。
「なあウソップ、あのソファどうだ?」
「お、レトロだね、クラシックだね、いいねいいね。」
「・・・本気であんなド花柄置く気か?」
「えー、いいだろ?雰囲気出るって。」
「しっかし、マリモとハナとでラブソファーかぁ・・・わー・・・」
「・・・遠い目やめろ、アホマユゲ。」


首謀者が追うのは、時を経てくすんだ小物たち。
「試験管にフラスコ、シリンダーもアルコールランプも。すごいなあ。」
「ひっく、チョッパ、調子どだ?」
「おう上々・・・ってルフィ、何飲んでるんだ?」
「コーラ。そこにあったぞ。」
「へー、コーラか!」
「おやつの時間だからな!」
「そうだな!・・・どこにあったって?」
「そのへん。」
「ルフィ、病気になるぞ?そのうち。」



うららかな日。

無邪気に宝の山とやらを漁っては喜んでいる友人たちを眺め、しかしゾロは思う。
その辺のガラクタどもよりも、この日の光のほうがよっぽど宝だと。
降り注ぐ陽光は、たっぷり受けなきゃ勿体ねェだろう。
そういうことで、ゾロはド花柄のソファにごろんと横になった。
ふむ、寝心地はまあまあか。



そうしてゾロは、初冬の太陽を存分に味わった。
いつものように。














夕暮れ。
吹く風は次第に冷たく冒険者たちを撥ね付けてゆく。
構内まで戻ってきたこの身は、後は己が住処へ帰るだけ。


「チョッパー」
「おうゾロ、起きてたのか。」
「何でこんなに人数呼んだのか、やっとわかったぜ。」
「どうした、ゾロ。」
「・・・荷物もちだろ。」
「いや あはは、嫌だなあそんな、それだけだなんてそんな。」
「ゾロ遅い!早く運びなさいよっ。」
「・・・・・」
「我慢しろゾロ、来週はおれが修理担当なんだ。」
ド花柄を抱えたルームメイトと共に、
うきうきとドレッサーを運んで揺れる金髪を睨んで、
バカでかいキャビネットを抱えたゾロは溜息をついた。



「いやー、宝探しは楽しいなー!」
古地図を両手いっぱいに抱えたルフィが、大きく笑った。






貧乏クサイだ?
何とでも言え。
今手にあるのは確かに宝。


「マユゲ」
「ああ?」
「ほれ、宝だ。」
「・・・あ。」
「・・・さっさと返せよ。」

世界で眠る無数のものよ。
暫し待て。
いつかおれたちの宝となるために。




オマケ(ゾロ睡眠中)




ivvi