ウソップ―熱・鼻
おれが風邪を引いた。
このおれ、ホコリのウソップが風邪を引いた。
このおれさま、勇敢なる海の戦士、キャプテンウソップ様が風邪を引いた。
ごないだナビが引いでだやづがうづったのがと思っだけどぢょっどぢがう。
何故なら、バリバリの鼻風邪だからだ。
「ぶへーっくしょい!」
本日150回目となる記念すべきくしゃみを盛大に放った。
全然嬉しくないぞ、くそっ。
よたよたとティッシュを取りに手を伸ばし、途切れることのないハナミズを必死で拭いた。
かあちゃん譲りの素晴らしい鼻はすでに真っ赤だ。
ひどい話だぜ、まったく。
「外まで聞こえてるぜ、長っ鼻。」
そういって、紙屑だらけの部屋にトレイを引っ提げて、そいつはすっと入ってきた。
「うるぜぇ、巻ぎ巻ぎ眉毛・・・」
「わはは、すんげー鼻声だなオイ。何つまってんだよ。」
「ハダミズにぎまっでるだろ!」
「くくく、無理すんな、今のお前じゃ勝てねェって。」
そう笑いながら、奴はおれが寝そべるソファに腰掛けた。
野郎とはいえ、おれは病人なんだから、
もうちっと気ぃ使ってもいいんじゃねえのかと言いたかったが、
そんな長いセリフは今は言えそうになかったのでやめた。
テーブルに夕飯の乗ったトレイを置いて、額に手を当ててきた。
「熱のほうはだいぶマシだな。が、そのハナが止まるまではキッチンには立入禁止だ。」
「何でだよォ!」
「バッチイだろうが!神聖なキッチンに病原菌が入るんじゃねェ。」
それはおれが病原菌だといいたいのか、と言おうとしたところで、
これまたとびきり盛大なくしゃみが出た。
「・・・ずまん、飛んだ・・・」
「知ってるよ。」
別に何てことないみたいに、その辺に落ちてたティッシュでジャケットに飛んだ汚れを奴は拭き取った。
「ホレ、とりあえず食え。おれとチョッパーのゴールデンコンビネーションだぜ。」トレイごと、おれの膝元に夕飯を置いた。
えらく赤い色をしたスープにライスが混じっている。
中にはさまざまな色の野菜とキノコが盛られていた。
「辛っ!!」
「なかなかファンキーだろ?」
奴はめちゃめちゃ嬉しそうに笑う。
「ご、ごんなの食ったら、ハナがどまらねえだろ!」
「お、珍しく察しがいいじゃねェか。」
「ぐぶぼぼぼ!」
反論は言葉にならなかった。
反論する前に、奴が肘鉄カマしたからだ。
「黙って食えよ、クソッ鼻。」
「・・・。」
そりゃあもちろんおれだって言いたいことはある。
テメェは病気の仲間をハナミズまみれにして何が楽しいんだとか。
おれは病人なんだからもうちっとくらい優しくしやがれとか。
でも、めちゃくちゃ辛くてめちゃくちゃうまいごった煮を平らげてみると、
何だか妙にすっきりした気分だった。
「出すときに一気に出しちまうもんなんだとよ、ハナミズは。」
「ごちそうさまでした。」
「うん、キノコも全部食ってる。成長したじゃねェか。」
「おれは海の男だ。」
「おう。」
「キノコ食うことくらい、おれの試練のひとつに過ぎないのだ。」
「・・・スケール小せェな。」
「うるせぇ。」
そういって、ふんと胸を張ってやった。
じゃあ最後はデザートだ、とサンジは、ジャケットから蜜柑を3つ取り出した。
「オイ、これって、まさか・・・」
「ナミさんからだよ。一つはな。」
・・・なんだ、可愛いところもあるんじゃねえか、あいつ。
「で、残りの二つは?」
「ひとつがおれから。もう一個は・・・」
「?」
「・・・ご褒美。」
「何のだよ?」
「だから・・・お前、キノコ、食っただろ?」
テメェが残してたら、おれが食うつもりだったけどな、と、そっぽ向いてサンジはぷぅっと煙を吐いた。
珍しく、照れてるんだろう。
それが何だかおかしくてたまらなかった。
「じゃあ、こいつからもらうぞ。」
キノコ完食記念の蜜柑の皮を剥いて、半分にちぎった。
「お前も食っとけ。」
お前に倒れられたら大変だ、と加えて蜜柑を渡す。
「言われなくても気ィつけるさ。」
「そうだな、バカは風邪引かねェから大丈夫だな。」
「おい、バカにバカとは言われたくねェぞ。」
「ふふん、おれは今日、立派に151回ものくしゃみを伴う風邪を引いている!バカじゃねえぞ。」
「いばるなよ・・・。」
「ところでこの蜜柑、二つはお前から、ってことなんだよな。」
「ああ。」
ナミからもらったのは一つ。
あのナミからの、蜜柑。
病人に特別サービスでサンジからももらえるとしても。
「ってつまり・・・。」
「・・・このおれにレディを欺かせたんだ、
意地でも明日には完治しやがれ。」
「・・・おうよ。」
低い低い声に、静かに蜜柑を手にしてうなずいた。
男ウソップ、ここに告白しよう。
―ちょっとだけ、マジビビリ入ました。
おれが散らかした紙屑をさっさと片付けて、奴は部屋を出ようとした。
「うまかったよ。」
「当然だ。だが人手が足りねェ。早く戻ってくれ。」
「お前、人使い荒いからなぁー。」
「バカヤロオ、こっちは厨房にルフィ入れるほど切羽詰まってんだよ!」
そいつは一大事だ。
「サンジ君が過労で倒れねェうちに、復活するよ。」
「いや明日だ、明日治せ。絶対治せ。」
「ふぁい。」
返事と一緒にあくびが出た。
「とっととクソして寝ろよ。」
「おう、ありがとうよ。」
そういって奴は出て行き、おれも布団をかぶった。
・・・何だ、やっぱり優しいんじゃねェか。あいつは。
******
キノコ。どうなんでしょうねー。
おいらは「何とか食ってる」んじゃないかと。
サンジ君にいつの間にか食わされてるとか、
サンジ君の料理だからめちゃめちゃ無理してでも食ってるとか。
でも食べられない話もそれはそれで楽しくて好きですv
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